17
地面を埋めた黄色い葉はみんなどこへ行ってしまったのか。気付けはみんながマフラーに顔を埋め、女子高生はスカートの下にタイツや、ジャージやらブランケットなんかを巻いている。そんな情けない格好の彼女らを廊下から見下ろすは夏と変わらずスカートに生足で、見ていた彼の方が寒さが増した気さえした。
「せんぱ……先輩、寒くないんですか」
「そういうお前は情けないくらいぬくぬくだなぁ」
わざとらしく笑う意地悪な顔は昔見たのと全く同じ表情で、こういった誰にも共感されない懐かしさを感じられるのならあの辛い前世の記憶を持って生まれたのもそう悪くないんじゃないかと思える。
少なくともあの六人のように生まれ変わってもなお縛られるような業の深い人生ではなかったから。
「それにしても、まさか先輩まで転生されてるなんて驚きましたよ」
「あいつらは転生だとしても、私はあくまで前世の記憶が戻っただけだから」
「ん?どう違うんですか?」
「体感的な問題だよ。竹谷はどっちだろうね」
今の横で開けたばかりの炭酸を飲んでいるのは当時何かと可愛いがっていた後輩の竹谷八左ヱ門。の今の姿。
目があった瞬間ピンときた、というとまるで運命の相手みたいだがそうじゃなくて。お互い見たことあるなって感じで声をかけたのがきっかけだ。後輩と言われて記憶にあるのは彼だけだがどうやら他の四人も元気でやってるらしい。
「私の前身が感じた苦痛は勿論、今の私の右腕が不便なのも全部仕返しし終えたら、思いきり殴り飛ばして許してやるんだ」
「許せるんですか」
冷たい声でそういう八左ヱ門は“”の最期を知っているから。最期だけを知っているから、に同情しあの馬鹿共を許せないでいてくれている。
「確かに、死ぬまでの数年間は思い出すのも苦しいくらい辛くて恨みしかないけどさ。それまでの時間をくれたのにはひたすら感謝してるんだよ」
学園で過ごした六年間と、卒業してから約束の時までの生き永らえさせられた三年間。悔しいことに生きててよかったと思える体験だって何度もあった。身を投じるためのロープを編むより草花の上を裸足で歩き回る方がよほど楽しいと教えてくれたのはやっぱりあの六人なのだと頭では分かっていた。
「私、最近思うんだ」
「ん?」
「“私”はきっと、ここは自分のいる場所じゃないって本能的に思ってたんじゃないかな。それこそ『来世に期待して』今自分の生きている世を見ちゃいなかった」
「そういえば先輩、よく来世がどうのって言ってましたね。あの頃はそんな与太話、て心の中で笑ってましたけどまさか本当にあるとは───」
正直すぎる阿呆の脇腹をどつく。うぐぅと丸まる八左ヱ門にはお構い無く話を続ける。
「今はあいつらがそうなんだろうね。あの頃に囚われて今を生きちゃいない。だから私が思いきりぶん殴って目を覚まさせてやるんだ」
「……」
「ここまで待たせてしまった罪滅ぼしとしてね」
罪滅ぼしなんて、先輩方が先輩にするべきものなのに。
「じゃあ行くよ。またな、八左ヱ門」
「先輩、その笑い方じゃ記憶戻ったのすぐバレますよ」
「あぁそうか。ありがとう竹谷~」
天真爛漫なその笑顔がかえって演技であることにあの六人はいつ気付くのだろう。
(先輩のことだからしばらくは散々先輩方の痛いところをついてからかうんだろうな)
意図せず味わうことになった優越感が竹谷をククと笑わせる。
そうして彼もまた背後から聞こえる聞きなれた友の声に反応し踵を返した。
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