嚢中の錐
ピシャンとしなる竹刀の音だけが響き、辺りは水を打ったように静まり返る。
先生すらなにも言えずに振り下ろされたまま微動だにしないその竹刀の先を見下ろして動かない。鮮やかな、とても鮮やかな“殺し方”だった。
「……こら――ッ!」
留三郎と組むことになったは安心したのか久しく見せなかった笑みを浮かべていた。場所をとるため打ち合いは三組ずつ行われる。先生の開始の合図に合わせそれぞれ三本ずつ行い次のペアにと交代していく。授業も後半になった時、留三郎とたちの番になった。最初の二本はあっさり留三郎にとられ、最後の一本。元々負けず嫌いであったから、今もとにかくとられまいとなんとか防いでいた。他の二組が終わってもその攻防は続き、攻める留三郎に必死に食らいついていなし続けていたが、少しずつ動きが鋭くなったかと思えば、一瞬の間にその立場は逆転した。
「!?」
籠手を狙った留三郎の竹刀は動かせないようしっかりと掴まれ、逃げる前に真上へ掲げられた竹刀を受けてしまう。
「────面。」
静かな声だが、無音の道場ならよく聞こえる。面、というわりには竹刀を振り下ろし過ぎるため、剣道としては素人だが、殺すための刀であれば上等だ。
厚着先生の声にやっと空気が変わる。「そんな振り方があるか」と叱られたはその後見学を命じられ道場隅で正座のまま、防具もとらず座っていた。
***
「……珍しく早いな」
授業後にを探したがどこにも姿はなかった。もし、もしも思い出したのだとしたら側にいようと思ったのだが、あいつの場合むしろ一人になりたいのかもしれない。余計な詮索はかえって迷惑だろうと踵を返したが、そういえば放課後には委員会があったのだと思い出す。今日は来ないかもしれないとたかをくくっていたが、図書室の鍵は開いており、ドアを開けると逃げ道を見つけた風がふわりと横をすり抜けた。一枚の銀杏が足元へ落ちる。
「きれいな景色だよな」
逆行で表情はよく見えないが、少なくともその口調は情緒を楽しんでいるようには思えなかった。
「……、お前は今、“どちら”だ?」
「“どちら”?何を言ってるんだか、私に、私以外の誰かがいるとでも?」
その返しが私たちの欲する答えになっていることに本人は気付いているのだろうか。それともわかった上でそう言っているのならそれは不干渉を望んだということだろう。
「……そうか」
拾った銀杏の葉は今度栞にでもしよう。いやがおうにも思い出す“あの日”のの泣きだしそうな表情
『───どう、長次』
「あぁ……綺麗だ」
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