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「、次の移動教室場所わかるかい?」
「分かるから、わざわざ付き添わないでいいよ」
「でも……」
「いいから」
「、」
「今急いでるから」
「!今度の体育──」
「間に合ってます」
「間に合ってない!」
そんな声でるんかっていう腹から出された声に面食らった。何事かと人目が集まったことに気付いたらしく途端にしなしなと背を丸め小声で言葉を続けた。
「あのね、来週から体育が選択科目になるんだけどね……」
選択科目。編入してきた私はもちろんそんなもの選んだ覚えはなく、必然的に余った科目に入れられたらしいが、どうやらそれが剣道らしくて。
「バスケ、バドミントン、テニスと並べられたらそりゃ人気ないでしょ……」
ここにきて初体験の武道に恐怖しかない。選択科目であえて剣道選ぶなんて経験者しかいないに決まってる。僕も留三郎もいるから大丈夫だよ!なんて的違いな励ましはいらねぇ、ぼかんとごみ袋を投げつけたらものの見事に善法寺に命中した。
───不運だ。
***
「お、ちゃんと来るとは偉いじゃないか」
「……もそ」
来るというか連れてこられたというか。数ヶ月剣道が続くなら初回は来ておくべきだと善法寺がうるさいから来ただけだ休めるなら休みたい。
「剣道したことないし友達はみんなバドミントンに行っちゃったし耐えがたい孤独感……」
「安心しろ、俺たちがいるじゃないか」
前会った時は泣きそうな顔をしていたのに、今じゃ吹っ切れた様子で私に防具の付け方を教えてくれている。
「慣れてるなぁ、食満たちは剣道習ってたの?」
「ん………。去、年も、受けたからだな」
「そっか」
何かを隠した言い方だけど、聞かないよ。私は鈍感なふりをする。
「──で、紐のわっかと垂れた紐の長さを揃えて、それぞれを掴んでピンと引っ張る」
「うわぁ薄暗いし臭いし閉所恐怖症になりそうだ」
「冷静に話せてるからモーマンタイだよ」
「それ死語では……?」
胴着をつけるだけでこれだけ騒いでるのは私たち以外におらず、意図せず浮いてしまい先生にも目をつけられた。鼻の下に整った髭をはやした色黒の、目付きの鋭い先生は大きく咳払いをして私たちを諌めた。チクショウ私は悪くない。
「……、来い。厚着先生」
「どうした」
「彼女は今年転校してきた為今回が初めての授業になります。基礎の素振りを教えたいのですが……」
「あぁ、そうだったな。私が見よう。中在家は練習に戻りなさい」
「……もそ」
防具が厚くてよく聞こえなかったが、中在家が先生に話をつけてくれたらしい。おかげで初見殺しという状況は回避できた。
「ありがとう中在家」
───お前は昔から面倒見がいいな
「はこれが初めてらしいな」
「はい」
他の生徒には向い合わせで打ち込み稽古とやらを命じて、私は先生にマンツーマンで素振りを教わることになった。防具に書いてある厚着というのは名字だろうか。とても珍しい。先生の話を半分程聞き逃してしまったが見よう見まねで竹刀を振るうと、案外それは手に馴染んだ。
「……やはり、筋がいいな」
「はぁ」
これも潮江のいう“前世”というものの影響だろうか。だとしたら私の前世はよほど優秀な男だったんだろうな。武士かな。
思いがけない素質にふふんと鼻をならしている私を突き落としたのは先生の気まぐれだった。
「よしやめッ!……そうだ、お前も混ざりなさい」
「えっ」
早々に個人レッスンを切り上げられた驚きで判断力が鈍り、あれよあれよという間にちょっとした練習試合のような場に混ぜられてしまった。名簿順に組んでくれればまだいいのに適当なやつと組めと言われれば私が取り残される図など容易に想像がついた。というか実際取り残されている。
「、俺と組もうぜ!」
隣のクラスの列から抜けて一目散に駆けてきてくれるバカは声だけでわかる。食満留三郎だ。
───昔からそうだ。一人でいると真っ先に駆けてきて勝負だなんだと騒いでいた。
「…………あぁ、これかぁ……」
「どうした?」
「いや、なんでもない。……ありがとう、食満」
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