10
最近、夜中に目が覚める。
そういう時は大抵寝汗をぐっしょりかいていて、喉がカラカラに渇いて、酷いときは身体中の水分が涙になっている。
心療内科に通おうにも夢の内容を覚えていなければ原因も思い当たらない。強いて言えばここ大川学園に編入してからのことくらいだ。でもそれを言ったら両親が責任を感じるだろうから言えない。私は孝行娘なのだ。
「……」
時計はまだ3時を越えた辺りで起きるにはまだ早い。冴えた頭では眠ることができないのが辛いけど、横になるだけでも休まるかと自分に言い聞かせ布団にくるまる。
あぁ、なんだか頭が痛い。
***
「ふぁ………眠い」
「今日そればっかり言ってるけど大丈夫?」
斜め後ろの席から善法寺の声がする。正直返事をするために体を起こすことすら難しいくらい今は意識が重いのだ。眠いという欲求ではなく気を失いそう。
「善法寺、次の授業ノートとっといてくれ……」
遺言のようにそれだけ言うと、始業のチャイムにも気付かないくらいぐっすりと寝落ちした。
「おい、、作兵衛たち見てないか」
「見てないな委員長殿。後輩に愛想を尽かされたのか?」
意地悪く笑ってやれば眉を潜めうるせぇと言い捨てて、また後輩探しの徘徊を続けた。留三郎の後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認してから奥の部屋で息を潜める雛鳥たちに出ておいでと声をかける。
「ふぅ……ありがとうございます」
「いいよこのくらい」
「食満先輩、怒ってませんでした?」
「怒る?ないなぁ。心配はすれど後輩を怒るところなんて想像つかない」
障子から顔を覗かせる富松作兵衛はとても驚いたという表情で目を丸くさせ、その横で一年は組の二人は得意気な顔をする。
「食満先輩は僕たちのこと好きだから!」
「ほら、後輩たちの方がよく分かってるじゃないか」
部屋の日陰になる場所から下坂部平太も微笑みながら頷いている。
彼らが私の部屋に集まっているのは、その先輩に贈り物をするためだ。
「先輩が私服で出掛けるとき、鉄双節棍を持ち運びやすくするために」
そういって下級生には安くないであろう布を持って私の元へ裁縫を教わりにきたのだ。無下にできるわけがない。
先程の留三郎への意地悪い発言も後輩に愛されるあいつへのただの嫉妬にすぎないのだ。
「あいつ、とても喜ぶよ」
とても大切にしていたよ。
それこそ、最期の時まで懐にいれておくくらい。
「───い、おい。起きろ」
「……ん、」
声をかけられ、真っ黒だった景色は目を焼くような橙色に変わる。思わず声に出た眩しいというぼやきにその男は鼻で笑った。
「伊作を探してるんだが……お前は寝てたから知らないよな」
「……留三郎、後輩からの贈り物はまだ持ってるか?」
「………、お前───」
「……あれ?いや、寝惚けていたんだ。何でもない」
まだ夢を見ているようだ。夢に出てきた忍装束の男に、食満があまりにも似ていたから。恥ずかしいなと笑い話のつもりだったのに、食満はひどく悲しそうな顔をした。
「どんな夢だったか、話してくれないか」
「……忘れたよ。大した内容じゃなかったのかも」
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