08
委員会活動と言うにはあまりにも仕事を生徒に任せすぎやしないかこの学校は。
一年生から三年生が平等に割り振られた仕事は転校して間もない私が一人でこなすのは酷だろうと中在家と私は二人一組で行うことになった。
「ごめんね中在家、仕事が倍になっちゃって」
また謝ったなと言いたげな顔をされたがもう癖みたいなものだから諦めてほしい。付け足すようにありがとうと言うと満足そうに(見える様子で)頷いて教室へ戻っていった。
「さて、帰るか」
誰もいない廊下に響く一人言がなんかむなしい。置き勉をして軽くなったリュックを背負い込んで下駄箱に向かう。
私の下駄箱の前に、光を受けて赤茶色に輝く髪をした少年が一人待ちぼうけている。そこにいられては邪魔でしかないのだが、臆病な私はどいてくれとも言えずむしろ彼の邪魔にならないようそっと靴を取り出した。
「お、だ!」
急に名前を呼ばれて無意識に体が反応してしまう。聞こえないふりをするべきだったと心の中で舌打ちをしてる間に力強く肩を掴まれぐるりと180度強制回転。余計不機嫌になる私に対してこの男、七松小平太とやらは新品のおもちゃを手にしたような笑顔で私を見下ろしている。
「よし、一緒に帰るぞ!」
「いや、誰か待ってたなら勝手に帰っちゃまずいでしょ」
「いや、と二人で帰る方が貴重だから気にするな!」
ひどいジャイアニズムである。
私の意見など聞く耳持たないといった様子で腕を引っ張る様子に先ほどまで七松に恋人が?とうきうきと楽しげに眺めていた外野も憐れみの目に変わっている。見てないで助けろよ。
「行くぞ!」
「は、はぁ……」
離せばか野郎、と声に出せればいいのだが。そんな度胸もない私は頭のなかで念仏を唱えながらなんとも乱暴な知り合いに引っ張られるのだった。
***
引っ張られるのだった……
「ここの公園にはよく野良猫が集まってな!やたら人懐っこいやつらなんだ!」
「へぇ……猫ね、大好きだよ 」
「ここの本屋の親父は騒ぐとすぐ怒鳴るから静かに通れよ!」
「もう既にうるさいよ七松」
「ここで初めて長次と合ったんだ!」
「この川は昔はもっともっと大きかったのにな!」
などなど。本当に、心の底から帰りたい。最初手を繋がれた時は こいつ私に気が…!? と思ったがそんな甘酸っぱいことはなく、ただどんどん突き進む彼に私が置いていかれぬよう掴まれているだけだ。流れる汗が酸っぱい。
「ちょっと待って七松…もう無理…疲れた…ッ」
「えぇ?体力落ちたなぁ」
何の話をしてるんだ。聞き返そうにも酸素を集めることに必死で頭は回らない。
さすがにまずいと思ったのか七松はおもむろに私の荷物を抱えた。
「そこに公園があるから、少し休もう」
「うん、ぜひそうしたい……」
「少し待ってろ!」
私がベンチに座り大きく息を吸うのと同時にそう言って走っていく後ろ姿は懐かしいと思わせる何かがあった。というのもさっき散々追いかける羽目になったからではと思ったがさすがにそれを懐かしいと思うほど時間は経っていないし、なんだかもっと昔から七松の走っていく背を見ていた気がする。
(誰かと重ねてるのかもしれない)
そう考え出すと走っていった背中がとても悲しく思えて、こんな広い公園に一人ぼっちのような気さえしてきた。
「、どうしたんだ?」
ハッとして顔をあげるといつの間にか七松が戻ってきている。ほれ、と言われ投げ渡されたペットボトルを、私の右手は上手く掴めなかった。
少しも抗うことなく、重力に従って落ちていく。
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