07

「今日の放課後は各委員会の集まりがあるため部活の開始時間を一時間遅らせる。始まるまでグラウンドや体育館は使わないように」

先生の話はぼんやりと聞いていた。
この間、紹介したいと放課後に呼び出された日からなんだかぼんやりする事が増えた。頭が働かずにぼんやりと時間を過ごしている典型的ダメ学生の一例だ。


、図書室の場所わかる?」
「知らない。なんで図書室の話?」
「先生が言ってたじゃないか。今日は委員会があるって。君図書委員に入ったんだろう?」

そういえばそうだった。三話前の話で所属委員会の紙を提出している。

「僕は保健委員会があるから送れないけど、長次が図書委員だから、委員会に行く前に寄ってもらうよう声かけておくよ」
「長次……」

口ぶりからして私も知ってる人なのだろうが、一体誰だったか。長次、長次。頭の中で呼び続ける。長次、図書委員の、長次……


『……どう、長次』

『嗚呼、綺麗な景色だ』


「中在家、長次か……」
「そうそう。じゃあ委員会、頑張ってね」

ひらりと手を振る善法寺には、私の混乱は気付かれていない。頭の中がザワザワする。なんの前触れもなく忙しく、騒がしくノイズのかかった映像を流す脳内に呼吸まで浅くなった気がする。前にも同じ事があった。病気だろうか、とにかく苦しい。頭のなかの荒い映像は視界まで埋めてしまったのか、ここから動くこともできない。



「……っ!?」

すがるように声のする方へ耳をすます。そのおかげか脳内はいくらか静かになった。

「中在家……」
「体調が優れないなら休んでもいいんだぞ」
「いや、もう大丈夫。気を遣わせてごめん」
「……そんなに謝ってばかりいなくていい」

会話する気があるのかってくらいぼそぼそとした小さな声だが、つい耳を傾けてしまう。今のは聞き間違えだろうかと思い聞き返すと、長身の彼は立ち止まり私が聞こえやすいように少し屈んだ。

「そんなに謝ってばかりいるな。また堂々としていればいい」
「そんな、謝ったことあるっけ?」
「……以前ゴミ箱の前で会った」
「コカ・コーラの……」

あそこで会った人は中在家だったのか。確かに長身だったことは覚えてるけど、声をかけられる前に逃げたから顔は見てないんだった。

「伊作が、飲み物を口にするのを止めたとか」
「あぁ……うん。どうしてか聞かれたけど、分からないんだ。今でも」
「……無理して思い出さなくていい」
「え?」


見上げた顔は少し気まずそうで、覗きこむと露骨に顔をそらされてしまった。

「そっか……思い出す、か。もしかしたら過去に何かあったのかもね」
……」
「コーラと」
「……」

あ、ため息つかれた。話し声は小さいわりにため息だけは普通に聞こえる音量だなぁこいつ。

「……、ところで『また』堂々としているってどういう意味?」

今度こそ黙りこんで、上がっているのか下がっているのか検討のつかない口元のまますたすたと図書室へと向かってしまった。必然的に置いていかれた形の私はすらりと伸びた大きな背中になんとも寂しいような思いを感じるだけだった。



   -戻る-