01
「たっ、たたた、大変だ……っ!」
放課後三人が集まる空き教室に駆け込んできた一人の少年は、息を切らしているのか興奮しているのか、鼻息を荒げながら転がり込む。
「なんだ突然」
「大方、補習でも免れたのだろう」
「違うんだよ!」
言いたかったことはたかだか補習のことではないし、実際補習は免れていなかった。
「夏休み明けから、転校生が来るらしい!」
そんな小学生じゃあるまいし……冷めた目を向ける三人の気持ちも分かる。こんな季節に転校してくる人のことで気持ちは盛り上がらないし、更には同情さえしてしまう。それでも少年の興奮は冷めやらず、終いには目を真っ赤にして夕焼け色の涙を流した。
「それが、その子、って言うんだって」
大きな粒が流れる。この涙は歓喜か贖罪か。
「なぁ、それ、聞き間違えじゃないのか……?」
普段後輩に恐れられる程つり目の少年も驚きのあまり目を丸くし、言葉を詰まらせる。
「?誰だそれは」
お前らの知り合いか、と首をかしげるのに従って綺麗な黒髪ははらりと流れた。おいおい嘘だろ忘れたのか、説明しようと口を開きかけた時、今度は前の扉が壊れそうな程高い音を出した。
「おい、がいたぞ」
それは今の彼らにとって爆弾発言だった。
***
テストの点数があまりにも悪くて頭を抱えたのは本人ではない。
「まさか、ここまでとは……」
「なはは!まぁ細かいことは気にするな!」
運動神経においては化け物レベルを誇る上に子供好き。面倒見がいい彼は体育教師として適材だと担任達も口を揃えるが、しかし成績が……と言葉を濁すのも、揃えて言われることだった。
大学が無理ならせめて専門でも、そんな世話焼きな友人に引っ張られ勉強すべく図書館に向かっている時の事だ。前方に、やたらキョロキョロと見渡しながら歩く女がいる。
普段なら気に止めないのだが、やたら怖々と歩く様子や、その子の持つ雰囲気など、どことなく放ってはおけないようだったので、「どこかお探しですか」と声をかけたのだ。
声をかけたきっかけはなんてことのないただの親切心でも、顔を見てからは完全な執着心へと変わった。
「お、前……?」
目の前の少女は俯き気味だった顔をあげ目を開き、しばらく口をパクパクさせた。
***
「……あぁ、か」
「バカタレ、今ごろ思い出したのか」
「なに、お前たちより出だしが遅かったのだから仕方ないだろう」
そういう二人の口元が仄かに上がっていることを涙目の少年は見逃さなかった。
「しかしなんでお前の背中は汚れてるんだ」
嬉しさのあまり地面にでも寝転んだのか?冗談を飛ばすつり目に答えたのは先ほどから黙って話を聞いていた長身の男だ。
「『だろう』と、何度も声をかけたのだ」
「お、おう」
「あまりにしつこかったから、『いい加減にしてくれ』と投げ飛ばされた」
「は?あいつ、やっぱり怒ってるのか?」
「あんな別れ方をしたのだ。縁を切りたいと思われても仕方ないだろう」
「そう思われてるなら、どれだけ良かったか」
その言葉に視線は一気に集まる。
「さっきから言いたいことがわからん。回りくどい言い方はするな」
歯切れの悪い二人も観念したように顔を見合わせ、長身の男は少しだけ開いた口でポツリと言う。
「何も、覚えていなかった」
本日二度目の爆弾発言だ。いや、これは爆弾なんかじゃない。核だ。
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