私は最期に夢を見る


ポタリ、ポタリと。認めたくはないなぁ

私は

とうとう折れてしまったなんて。


「………淋しい」


卒業して、後ろ暗い仕事をするたびに学園で過ごした六年間を思い出していた。あそこで過ごしたかけがえのない日々を思い出すことでなんとか自分が自分でいられる形を保っていたのに。
今ではその全てが消えてはくれない呪いとなりつきまとう。
一年生の春、みんなと握手を交わした右手。二年生、実習を頑張ろうと突き上げた右手、三年生四年生、落ちそうになる同級生を必死に掴んだ右手。五年生、仲間の去り際に振った右手。六年生、彼らと共に杯を交わした右手。
そして彼らを殺めた、右手。

「うっ、ああああああァ……ッ!」

耳を塞ぎたくなる程の咆哮も肉を裂く音も、どちらも止むことはない。
何度も何度も自分を戒めるよう右手を刺して血塗れにしても、止めてくれる人などもうどこにもいない。私は仲間の声も安らぎも得ることなく、こうして一人幕を閉じるのだ。
最後に抱いた感情は、一人一人送っていた彼らへの恨みと、この道しか残さなかった己への失望。

「……っ?」

痛みと混乱でおかしくなっていた可能性なんて大いにある。こんな季節に見るはずもないのに、どうしても目が離せないのは、月明かりで白菫色に光る薄桜。


『来世に期待して飛び降りようとしたのを止められここに入学させられました。あと六年間よろしくお願いいたします』

一年生の春。心からの正直な自己紹介を述べたとき、他人のくせにとても悲しい顔をした子がいた。今思えば、あれは伊作だったんだ。
くのたまと見間違う程の大きな瞳とふわりと柔らかい髪。容姿に恵まれているなというのが第一印象だった。奴がとんでもない頑固者だと知ったのはそれから数年後だ。

『死ぬ前に君に会いたいんだ。僕らの過ごした学園生活が、忍になるまでの道のりが幸せであったと思えるように』

桜も咲かない卒業式の日まで、しつこくそう言っていたのも伊作だった。
今となっては結果論でしかないが、あの日、約束を交わしてしまったあの日。きっとあの六人は知っていたんだ。卒業後すぐに私が命日を用意することを。


崖の上に舞う白菫色に光る薄桜。
掴もうと伸ばした腕は空を掴み、そのまま何かにひかれるように、体は宙へと投げ出された。


卒業してから三年間は、約束が私を生かした。
三年目の長月、仙蔵を刺し殺した。
同じ年の霜月、長次に毒を飲ませた。
それから半年後、小平太を突き落とした。
それから一年半後、留三郎を刺し殺した。
その三月後、文次郎を刺し殺した。
翌年の卯月、毒を飲んだ伊作にとどめを刺した。
卒業したら終わりにしようと思っていた私の人生はあんな奴等によって六年程延ばされてしまった。



とんだ延命だ。



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