拾伍
「十八…十九…二十ッ!」
凛とした女の声が響いた場所には既に何もなく、強いてあげるとすれば砂埃が舞っていることくらいだ。
辺りは物音一つせず、恐ろしい位に静寂であった。
しばらく続いた静寂を破ったのは、自分が場違いであると重々承知しているのだろう。申し訳なさそうに眉を下げた五年ろ組、竹谷八左ヱ門だった。
彼が眉を下げているのは何も申し訳なさだけではない。
「先輩方!どこにいらっしゃいますか!あの…お話したいことがァ!」
情けない事に完全に気配を消し忍んでいる六年の居場所がわからないのだ。
「八左ヱ門~!」
「わっ先ぱ……じゃなくて、先輩!」
空から降ってくる、と言っても過言ではない。そんな彼女を慌てて受け止め、ようやく六年生と会えたことに安堵の息を漏らす。
「良かった~このまま誰も出てきてくれなかったらどうしようかと……」
「泣きそうな顔するな、五年生。で、どうした?」
「そうでした。あの、孫兵が新たに飼いだした毒もち爬虫類隊が集団で遠足に行ってしまいました!」
そう言って指を指した森はいまだに物音一つとしてしないのだから六年ともなると肝が座っている。
「駄目じゃないか八左ヱ門~今は六年生が後期の予算をめぐって真剣隠れん坊をしているのに」
「すみません……」
「まぁいいさ、毒もち爬虫類隊とやらにやられる程度の奴等なら卒業する前に死んでしまった方が学園の名に泥を塗らずに済むしね!気にしなくていいよ!」
「は、はぁ……なんか、すみません……」
この人と同学年でないことへの感謝はおくびにも出さず、もう一度すみませんと謝ってその場を離れた。全速力で。
そしてその判断は正しく、四半刻もしないうちに善法寺伊作の悲鳴があがるのだった。
「と、留三郎が噛まれた~ッ!」
「伊作みっけ~~」
一番最初に見つかった保健委員長は予算が一番低くなることが決定して涙はさらに溢れだすが、なんとか友情が勝りもう一度助けを乞うた。
嗚呼、それはなんとも懐かしい。
「久しぶりだね、」
「私としてはようやくここまで来たって感じだな」
「僕も、君が約束を守ってくれたこと、こうして君とまた会えたこと、心から嬉しく思うよ」
「同胞を手にかけなきゃならない私の気持ちも考えろよ」
「なんなら依頼料の倍を出そうか」
「まてまて、そんなに銭があるならいっそ忍から足洗って楽しく生きなよ」
やつれたその顔を見る限り、到底ひもじい生活から脱することができないでいるのかと思いきや、金銭面に苦労はしていないらしい。
では何故か。何故この男は安くない金を払い私に殺せと願うのか。
「生きることは、無理だよ……僕があんな毒粉を作ったあの日から、心だけ先に死んでいる」
「……なら私はどうなんだ」
「君は、強い人だ。昔から」
羨むような伊作の呟きはの声を怒りで震わせたが、どちらもそれには気付かぬ振りを続ける。いっそ怒りに任せて殺してくれればいいのにと願う伊作の思いとは異なり、の手はだらりと下がったままだ。
「強いんじゃないよ。お前達のせいで、座りこむことすら許されないだけだ」
「ご謙遜を。強いからこそ今もそうして立っていられるんだよ」
伊作の目はとても優しくて、それこそ留三郎を殺したときに見た私の比ではないくらいに優しく、ばか正直な目をしていた。
前│次
-戻る-