拾参

これまた懐かしい夢だ。過去の夢を見るのは年老いたからか死ぬ前兆か。目を覚ませば案外答えは目の前にあった。

「……気付いてたよ、仙蔵も長次も小平太も。みんなしてよそよそしさを隠しきれてなんかなかった」
……」

成程そういうわけなのか、嘲笑を浮かべてしまう。その間も目の前の憎い男は何も言わないし私も何か言葉をかけてくれとは思わないが、ただこの沈黙が痛いほどの肯定に感じられて呼吸が浅くなる。小平太にかけられた呪いの言葉を思い出してしまう。

「それにしても……ふふっ、まさか文次郎がね」

小屋は風にあてられあちらこちらで悲鳴をあげている。もともと使われなくなったボロ小屋を拝借したのだし、最低限の雨風を防げれば万々歳と思っていたが、この風音のせいで易々と侵入を許してしまうことになるとはとんだ誤算であった。

「夜這いとはなかなかやるなぁ」
「……バカタレ」
「いつからだ?酷いよなぁ、仙蔵たちも知っていたなら教えてくれれば良かったのに」

相手の忍に依頼内容を聞くのはタブーだと教わった。だがどうやらこの様子では、少なくとも小平太は文次郎が私の暗殺を頼まれたことを知っていたのだろう。それ故の、『お前は私たちの中には入れない』だったのだろう。
目的の人物が仕事内容を知ってしまうというのはなんとも無粋な話だろう?

「さて……このままお前に殺されるのもいいが、まだ約束が残っててね」

一度契った約束は、命の限り果たさねばならない。人を殺めておいて今更だが、約束を破った罪で阿鼻地獄行きでは、輪廻転生は難しくなりそうだから。

「さぁ……そこをどけッ!」
「な……ッ!?」

組み敷かれてる状態ではどうにもならない。私が無抵抗だと油断したのか、両手の拘束が緩んだのをいいことに、文次郎に思いきり抱きついてバランスを崩させた。そこで体を反転させれば今度は私が組み敷く番だ。

「これが、『好意のない相手から夜を逃げる法』だよ」
「そんな忍術があるかバカタレ」

あの頃よりもさらに、少し低くなった文次郎の声。懐かしさの中に寂しさが垣間見えて、そんな心情を掻き消すようにその手をぐっと引いて体を起こさせた。

「……お前、何がしたいんだ」
「折角の再会なんだ。話をしよう」
「だが俺は───」
「夜はまだ長い。今急いて殺すこともないだろう?」

挑発するように、無防備の首を傾げ苦無を首に当てて見せると、案の定文次郎は眉間に皺を寄せながらも一旦武器を下ろし、再度構えた。

「いくぞ」
「さぁどうぞ」

殺気はない。こんなのただの手合わせなのだ。二人で火を囲み話をしていたあの時よりも、こちらの方がよほど話しやすい。


「私はお前らを許さないよ」
「……あぁ」
「死ななくても良かった……かもしれない、友の命を、自分の手で終わらせるなんて、随分酷なこと考えるよね」
「……あぁ」

金属のぶつかり合う音が古ぼけた小屋によく響く。
今までためこんできたものを吐き出すように、いくつもいくつも話を繰り広げ、気付けばもう月も、大分沈みかけている。

「四人目に殺したのは、留三郎だよ」

文次郎は驚くでもなく、落胆するでもなく、いまだ隈の残るその目をこちらに向けたまま何も言わない。まるで納得しているかのようだった。

「あの留三郎には会わせたくないね」
「もう会ったさ」
「……あぁそうなのか」

あぁあ。自分の事のように悲しくなった。辛いだろう。あの箱庭で、犬猿の仲として図らずもお互いを磨きあってきた相手が、今じゃみる影もない抜殻となっていたんだから。

「あいつは、忍になるべきではなかっただろうね」
「さぁな。あいつの決めたことだ。俺には分かりかねる」

興味がない、フリをして。武器に殺気が込められたのに気付かない筈がない。

あぁ時間か。
空がだんだんと白んできた。



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