拾弐


「今度こそ捕まえたよ!」

学園を発つ準備のため、もう二度と着られない制服や学園でのあれこれを燃やしている私の背後、伊作はしつこくも声をかけてきた。

「いつまでそこにいるのかと思ったよ」
「気付いてたの?」
「むしろ、あれで気配を消してたの?」

殺気は隠さない。すくんだ伊作に代わり仙蔵が言葉を発す。よく見れば後ろには六年全員が集結していた。

「お前にだから、頼んでいるんだ」

何を偉そうに。仙蔵の全てを見透かしたような態度が大嫌いだし、つい、抱えるものを話してしまいたい気持ちにもなる。

「……そんなさぁ、私の来世は相当業の深いものになってしまうよ」
「そんなことないさ、行為はどうあれそれが僕らを救うことになるんだから」

本当にそうだろうか。人を殺すことに善悪の基準はないように思えるが、伊作の目は背けてしまいたくなるほど真っ直ぐで、ずるい私は考えるふりをして時間を稼いだ。
まだ何かを言おうとする仙蔵を宥めた伊作は「返事待ってるね」と言い残して夜に沈んだ森の中へ消えた。あいつらのせいで学園へ戻るタイミングを逃した私はしばらく焚き火を見つめ時間の経過を待っていたのだが、どうやらまだ人がいたらしい。

「そんな睨むなよ文次郎」
「なぁ、来世ってなんだ?」
「え、いきなり何その質問」
「言葉通りの意味だ。お前がよく口にする来世とは何なんだ」

文次郎の顔は真剣そのもので、とても煽っているとは思えない。まさかそれを聞くためにここに一人残っているのだろうか。

「文次郎も知らないなんて意外だなぁ。まぁでもそっか。興味がなきゃ知らないよね」

一人言を呟いて、私が知っていること───と言っても遠い昔文献で読んだあやふやなものだが───を文次郎に教えてやる。

「例えば文次郎が死んだとする」
「縁起でもないこと言いやがる」
「その魂が輪廻の輪に加わって、暫くしたらその魂は何か別のものに転生して、新たに生を得るの」

近くに落ちていた枝でぐるぐると地面に円を描き輪廻の説明をするも、まったく伝わらなかったらしい。彼の大きな目がこちらを覗き込んでいる。

「んー…つまり、きり丸の鼻紙と一緒だよ。使って暫くは乾かして、もう一度鼻紙として生まれ変わるでしょ?」
「さっきの例えよりは幾分か想像しやすい」
「そうか。ただ鼻紙と違うのが、何になるか分からないということだ」
「私の生まれ変わりが目の見えぬ土竜かもしれないし、物言わぬ魚かもしれない」
「だが人間かもしれねぇ」

焚き火の火が跳ねる。文次郎は面白いことを言うな。もしかしたら前世の私もこうやって来世に思いを馳せながら輪廻へと帰っていったのかもしれない。

「はぁ…生まれ変わっても、みんなのことは何処かに記憶しておきたいなぁ」
「来世というのは今の記憶がないのか」
「当たり前だろう?生まれてすぐにいろんなもん抱えてたら人生務まらないよ」

それもそうか……夜空に遠慮した静かな声で文次郎はため息をついた。そういえば、こうして二人でゆっくり話すのは初めてじゃないだろうか。
思わず笑いだしそうになっていると、制服も教科書も思い出も、全てを燃やし終えた火はお役目御免とばかりに姿を消した。お疲れ様だ。

「学園へ戻るか」
「そうだね、今日は布団で寝ろよ」
「いや、一旦学園に戻って鍛練に出る」
「そう」

霞扇を使った私は文次郎を担いで学園へと戻った。



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