思い出を心に留め


今私の目の前にいる男に語りかける。
卒業して、五年が経過したころのことだ。まぁプロ忍の道に楽しいことなんて奇跡と同じくらい起こりはしないのだから、人が変わっていても無理はない。……のかもしれない。
あの頃の覇気というものは一切なく、心臓の入った傀儡と成り果てた男に私が忘れもしない先ほどの思い出話を聞かせてやった。


「あれは楽しかったなぁ。伊作は話を逸らされたと嘆いていたし、用具委員の後輩たちは必死になってお前を応援していたしね」

この時点で、どういうわけか目の前の傀儡、もとい、食満留三郎が忍としてあるべきでない反応をしていたのだが、それでも私は陰湿な八つ当たりをするように口を閉じずにいた。

「特に作兵衛はさ、憧れの眼差しが強かったよ。『先輩が負けるはずがねぇ!』なんて言われたら手を抜いちゃうよね」
「……お、前は」
「ん?」
「わかってて言っているのか……ッ!」
「あは、まだ残ってたんだ。人間らしさ」

もうずっと手入れされなくなった鉄双節棍が殺気を帯びてこちらへ降り下ろされる。
そんな感情丸出しの攻撃見え透いているのに。

「弱くなったな、留三郎」

昔はもう少し頭を使った戦いができる奴だったのに。
いや、卒業してから五年も経てば記憶の美化をしていても不思議ではないか。
間合いをとって刀の鞘を乱状剣に投げつければ、願った通り鉄双節棍で叩き落とした。手裏剣を数回、どれも落とされる。手裏剣、苦無。

「留三郎手紙に書いてたよね『俺は何人目だ』って。四人目だよ」
「な……っ」

明らかな動揺。手裏剣をいなすタイミングが少しずれ、思いがけない方向へ弾ける。

「身勝手だよなぁ、お前ら、友人を殺すことと他人を殺すことの違いなんて分からないだろ」
「分かるさ、俺も、殺した、から」
「お前ガッ!?」

一瞬の動揺を掬われ鳩尾に蹴りが入る。それにしてもなんともタイミングのいい攻撃だ。台詞が成立したぞ。

「はぁ成る程、先ほど見せた顔はそういうことか。富松か?それとも……えぇと、浜?」

そのまま口を開かず沈黙を貫いていたがおそらく答えは「両方」だろう。

「お前が地獄と言ったのはその事か。はてお前が地獄なら私はなんだろうなァ」
「あぁだからそこお前への依頼を躊躇った───!?」

鉄双節棍の扱いに長けていれば長けているほど、振り回す回数はもちろん増える。それは強みでもあるが、その分視界に入る武器が空間認識の欠如に繋がること、私の勝手な憶測だがてんで的外れというわけでもなかったらしい。
体勢を立て直そうとするその足に引っ掛け背負い投げを決める。受け身をとりこちらを振り返るその顔は、思わず目を背けたくなるほど、痛ましく見えた。

「守一郎が城に来た時点で嫌な気がしてたんだ……そして、予感は案の定的中した」

城主を見殺しにするか、後輩を殺すか。数秒にも満たない僅かな時間で留三郎はどれだけ悩んだのだろう。どれだけの覚悟で、同じ学舎の、同じ委員会の後輩を殺めたのだろう。自分だって同じことをした癖に、それと同じくらいかそれ以上に胸が痛む。私はお人好しな性格ではなかったはずなのになぁ。

「なら富松は?」
「俺の勝手で、殺した」

本当にそうだろうか。今の顔を見て納得はできないが、これ以上詮索したところで望んだ答えは返ってこないだろう。
一つ分かることは、こいつは忍になるには心が優しすぎた。

苦しみに足掻きがとれなくなった留三郎を突き飛ばす。大した抵抗もなく覆い被さる私と留三郎の闇を映した目がかち合う。さぁ、、覚悟を決めろ。

「留三郎がやってきたように、痛みもなく一瞬で楽にしてあげる。こんな暗闇とはお別れして、みんなの向かった学園へ戻りな」

馬乗りになったまま袖口からそっと苦無を取り出し、留三郎には見えないように首元に近付ける。
痺れる手も、高鳴る心音も、決して悟られてはならない。ただ寝かしつけるように、そっと、そっと。

「どんな具合かな。殺される側というのは」
「あぁ……相手がお前だからか、存外悪い気はしない」
「お前の後輩たちも、そう思いながら逝ったはずだよ」

真っ暗であった留三郎の目に僅かながら光が灯されたその一瞬、彼の目の中に優しげな顔をした自分が映ったことに驚いた。

嗚呼、まだ残ってたんだ。人間らしさ。



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