【卒業おめでとう】

何が『おめでとう』だ。
立て掛けられた看板に小さく蹴りを入れるところを後輩たちに見られていた。シィと口に手を当てると目を真っ赤に腫らした愛しき後輩たちはコクコクと首を縦にふってくれた。卒業生との、最後の約束。
校庭には桜の蕾があちらこちらに見えるけど、咲くにはまだ時間が必要らしい。毎年卒業式には咲いていたのに、ひどいじゃないか。


「……」


わざと振り向かないでやると先程よりも大きな声で呼ばれてしまう。

「何さ、伊作」

成る程、泣き腫らした顔は下級生だけじゃないね。笑いたいのをくっと堪えていてのに後ろに立つ留三郎まで同じ顔をしていたのでとうとう吹き出した。ごめんって。

「何の用かな伊作」

一瞬以前の集いでの話を思い出して口元を歪めてしまった。まさか、まさかね。あのときの伊作酔っぱらってたし。

「死ぬ前に君に会いたいんだ。僕らの過ごした学園生活が、忍になるまでの道のりが幸せであったと思えるように」

「あぁ……あの話覚えてたんだ」

申し訳なさそうに笑うなら言わなきゃいいのに。腹が立ってきた殴りたい。

「留三郎、止めてくれないの?」
「こいつがどれだけ頑固かはお前もよく知っているだろ?」

ため息がとまらない。留三郎のお墨付きと言うこともあって伊作は何度も頼むよ頼むよと繰り返してくる。

「あのさぁ、半忍半農の私が、本職の忍を暗殺って。無理がある話だろう」
「大丈夫だよ!君は僕たちより強い。最後まで君には誰も勝てなかったじゃないか」
「いや、俺なら勝てるぜ!あそこで伊作の不運に巻き込まれなければ俺が勝ってた」
「なら今からやるか?後輩の前で恥をかかせてやろう」

先輩方の対決だと真っ先に駆けつけたのは目を銭にしたきり丸で、そこから少しずつ広がりいつのまにか見世物のように周囲を囲まれてしまった。きり丸に目をやると、既に何枚かチケットを売ったようで目を輝かせているし、あの子の生活費のためなら猿回しでもなんでもやってやろう。留三郎は片眉ををあげた苦そうな顔でこちらを見ているが、後輩思いなのはこの男も同じ。私が武器を取り出すと覚悟を決めたように鉄双節棍を握った。



記憶力はいい方だと自覚していたが、思っていた以上にはっきりと覚えているらしい。
呆れ顔で見守る先生たちも、チケットを捌き終え飲み物販売を始めるきり丸も熱の入った目でこちらを見ている後輩たちも、もはや校庭の匂いや風の音も思い出せるんじゃないかと思うほどに、私ははっきりと覚えている。

結局あの“じゃれあい”はかなり大規模な見世物試合となってきり丸を大喜びさせたんだっけ。留三郎との戦いにケリがつくかつかないかの所で俺も俺もと参戦し、最終的には文次郎、小平太も混ざる脳筋三人組と戦うことになったんだ。



「お前ら!邪魔するんじゃねぇよッ!」
「留三郎だけいい思いさせてたまるか!」
「私も参加するー!」
「やれやれ私の意見は無視か」

仕込み刀を取りだし場の空気は最高潮。ぎらぎらと光らせた目で襲い掛かってくる脳筋三人を相手にある程度苦戦を強いられたのだった。



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