「綺麗な景色だよね」

音も気配もなく近寄った私に驚いた様子を見せないとは、少しも忍の勘とやらは衰えてないんだろう。

「……久しいな」
「覚えてくれてたなんて嬉しいな」
「忘れないさ、お前も、あいつらのことも……」

相も変わらず感情の読めない男だが、六年も付き合っていれば小平太ほどではなくとも多少の気持ちは察せられる。

「どうした長次、なんか辛いことでもあった?」
「人を殺すのは、まだ辛いか……?」

もしかしてまだ匂いが染み付いてたのかな。私の方を向いて悲しそうに言った。

「……うん、それに怖い。でも、何よりも殺すことに慣れるのが怖いと思う」
「あぁ、まさしくその通りだ」

言おうか、言うまいか。
あぁでも、奴の遺言だから。伝えねば。

「私、一昨日も人を殺したよ」

誰だと思う?

この言葉に何かを察した長次はひどく苦い顔をし私の言葉を殺気立てて急かす。言いたくない言いたくない言いたくない、口の中がカラカラだ。

「仙蔵、立花仙蔵を殺したんだ」

この時の長次ほど、恐ろしく感じたことはない。ずっと伏せ目がちであった瞳を獣のように大きく開き、口角は止まることを知らずあがり続ける。このまま彼の殺気に殺されてしまえば楽なのに。仙蔵の言葉が後ろ髪を引く。

「そういった冗談は好きではない」
「冗談なんかじゃないさ、ほら」

懐の中に潜ませていたあの頃よりも少し傷んだ上品な髪。するりと抜いて掲げても長次はそれを見ようとはしない。

「……長次?」

ちくりと感じた違和感はじりじりと大きくなる。俯いたままの長次は重たい口をとうとう端まで閉じてただ私の言葉を待った。

「長次……」

ねぇ、もしかして

「……見えてないの?」


かち合わない視線は、宙に向いた。

「まさか、毒……!?誰にやられた?」
「……物騒なことだな、視力を失う原因など毒の他にも数多ある」
「例えば?」

情けなく取り乱す私とは対照的に長次は落ち着いていて。そう。昔から変わらない。身に降り注ぐ事実全てを受容してみせるのだ。在学時代にも、こんな男だから小平太と六年間も同室でいられるんだと話し感嘆の吐息をついていたのを思い出した。

「……昔図書室で沢山の本を読んだ。伊作程でなくとも医療の本にかじり知識を得た」
「……」
「旅の途中、訪ねた村で大規模な感染病が流行していた。この失明は、彼らのために尽力した証だ」

なんて返せばいいのか分からずに黙っていると長次の方から言葉をかけてきた。

「……仙蔵は、私の殺しを頼まれていたか」
「何故そう思う?」
「数日前にも、ある城から私を暗殺する者が現れた。情報を提供した城からの忍だったから、サクラタケからの暗殺も警戒はしていた」
「さすがだね長次、その通りだよ。警戒するよう伝えてくれと頼まれてここに来た」

だんだんと嫌な予感が込み上げて胸焼けしそうだ。



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