弐
思い出す、在学時代の話。
「私?そうだね……城仕えはしないかな」
これはよくある集い。忍術学園六年生の恒例行事ともいえるこの集いを誰よりも楽しみにしていることはの胸の内に秘められている。
「フリーの忍者になるのかい?」
「半忍半農を極めるよ」
パリッと煎餅をかじる乾いた音が響く。
人の部屋に食べかすをこぼすなと仙蔵は怒るが言うだけ無駄だ。幸せそうに頬張るこいつが聞いている訳がない。
「学園からそう遠くないところに暮らして、そこで畑仕事をしたいな。大木雅之助先生にご指導して頂いて、育った野菜を売ったり食堂のおばちゃんに渡したりしてさ」
「なんだ!折角忍術学園を卒業するのにくノ一にならないのか」
「小平太、話聞いてた?半忍半農。食っていけなくなったり依頼が来たりしたら忍者しますー」
「まぁお前の幸運ならどうにでもなりそうだな」
「どうだろうね。あ、家の住所ここだから、何か手伝ってほしいことがあったら手紙ちょうだいな」
既に家を確保していたことに驚き呆れたのは一人だけじゃなかった。
他の六年生が必死の就職活動をしている間に物件探しをしていたとは。
部屋に苦笑が漏れるのも仕方ない。
「そしたら僕は、最期に看取ってもらえるよう依頼しようかな」
「は?」
呑みの席に似つかわしくない言葉は皆の視線を容易に集めた。
「縁起でもないこと言うなよ伊作ッ」
横に座っていた留三郎がどつく。酒のせいか怒っているのか分からない態度で腕を振り上げるが、妙に冷静な面持ちの伊作にぶつけるのも躊躇われ握られた拳をそっと下ろした。
「忍になる以上日向や床で死ねるとは思っていないし、それなりの覚悟は出来てるよ。でも」
もし望むことが許されるなら仲間に看取ってもらいたい。
誰もが口を開かず杯に口をつける。
「私の『幸運』を肖ろうって?」
ちりちりと油を吸って灯される火は、星の輝く夜の中から彼女の白い頬を綺麗に抜き取って見せた。
「そうだよ、死んだあとくらい不運から解放されて、君の幸運にあやかりたいんだぁ」
「伊作、飲み過ぎだぞ!」
頬を赤くして駄々をこねるようなその様じゃどこまでが本気か分からない。日頃の不運さへの愚痴だろうと聞き流す面々の中、の口許は三日月を描きながらも目はシンと伊作を捉えていた。
「さて、そろそろお開きにしよう。明日も放課後の委員会がある」
酔いを感じさせない仙蔵の言葉で場はお開きとなった。
***
「」
くノ一長屋へ戻ろうとした時、ふと聞きなれた仙蔵の声に足を止めた。
「何?」
「さっきの伊作の言葉、真に受けるなよ」
おや、と。僅かに目を見開き今度は口を半月にして笑った。
「なんというか、流石だよ、仙蔵は」
「目が笑ってなかったからな」
この男の前では下手な嘘など無意味であると理解しているつもりだ。それでも人間とはおかしなものでとっさの時には嘘が零れてしまうのだ。
伊作の言葉なんて気にしてないよ、と。これすら嘘だと見破られているだろうに。
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