「おいやめろ」
身に覚えのない言葉に北添と絵馬が顔を向ける。二人の視線を受けて影浦は余計に眉を潜めた。
「お前らまでこっち見んな」
「いや……先にそっちが変なこと言ったんでしょ」
「お前らに言ったんじゃねぇ」
忌々しく指差した廊下の後方にはいつからいたのか懐かしの同級生が立っていた。
「
ちゃん。久し振り」
「久し振り。学校じゃ意外と見かけないもんだなぁ。ちょっと痩せた?」
「防衛任務頑張ってるからね」
「ゾエはトトロボディじゃないとやだよ。はいお土産」
手渡されたいいとこのどら焼き。影浦の元を避難所に使うのに手土産を持ってきたのはこれが始めてだった。
「お前でも成長ってすんだな」
「うるせぇ」
***
「おお!お前が噂の“
”だな!情報は知ってるぞ!」
「初めまして仁礼オペレーター、絵馬隊員。しばらくここ借りてもいい?」
「仕方ないなぁ。まったくアタシがいないとだめなんだよなここは」
「ふふ、そうかもね」
「どういう意味だ」
渇いた笑みを溢しながらトリガーを起動し換装する。もう何年も見なかった真っ黒の隊服はここ影浦隊に馴染んでいた。もし今後戦力の拡充が必要になったら
以外に考えられない。
尤も、本人が望まないだろうが。
「ただ駄弁りに来たわけじゃねェんだろ」
人差し指をくい、と曲げ
ににやりと笑いかける。勿論、だから換装したんだよ。
も影浦に負けない悪どい笑みを浮かべ首を鳴らした。
「
とカゲは組まないでね。ただのいじめになっちゃうから」
「じゃあグッパーで決めよう」
一回目のチームは
と絵馬、影浦と北添。
「スナイパーなんだ。援護よろしく、絵馬隊員」
「………」
小さい会釈で済ませたのを気には止めなかったのか、
は口の端をわずかにあげ転送されるのを待っている。悪い予感しかしないよ、と息を漏らす北添にもよろしく、と返した。
「よーしじゃあ四人ともバラバラに転送してやるからな」
仁礼の掛け声を合図に四人が転送される。北添はビル上空、影浦と
はショッピングモール、絵馬はビルの屋上へ転送された。
「最初の位置取りはこっちが有利だね」
「ゾエさんだけ可哀想!」
「ユズルが狙ってんだろ、シールド張っとけよ」
唯一全員の通信が聞こえる仁礼はこたつに足を突っ込みにやにやしていた。
「なんだよあいつら楽しそうだなー」
仁礼にとっては
はオペレーターの間で噂になっている謎多き人物でしかなかったが、あの影浦たちがいつもより浮わつくような人物なのだ。悪い人ではないと確信した。だからこそ作戦室にいれたし、仮想戦闘にも手を貸してやった。
「ボーダーから追い出されるなんて、よっぽど癖の強い奴なのかと思ったら別に普通のJKぽいな」
閲覧制限がかかり黒塗りの多い身上に目を向けながらぼやく間に、試合は当然影浦達の勝利で終わった。
「ありがとう影浦隊。おかげで少しスッキリした」
夕日もどっぷり沈み、辺りはもう夜だ。冬は夜が長いから好きだと笑う
の顔は、確かにここに来た時より幾分か晴れやかだった。
「……お前、またなんかあったのかよ」
「んや、これはただの癇癪だから。もれなく八つ当たりさせてもらったまでさ」
ははは、と笑う声が作られたものだということは出会ったばかりの仁礼や絵馬にも分かる。だから影浦が
の襟を引っ張ってお好み焼き店に連れて行く事に異議を唱えなかった。
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