一本勝負。いや十本。一本勝負。なら五本!一本勝負。……じゃあ三でいい。
相互の妥協によりなんとか三本に持ち込んだ試合に米屋はずいぶんと楽しげだ。
「はじめまして米屋隊員。君は出水と同じ隊なの?」
「違うよ。今回は学校から直で来たから一緒だっただけ」
「あぁ成程。17歳なのね」
「そういうあんたは19なんだろ?前にあんたのこと探してる烏丸と遭遇してさ」
「はぁ……まじであいつに声かけたの後悔してる」
会話をしているうちにそれぞれが転送され、国道を模した道路の10mほど先に相手が立っているのが目視で確認できた。
「私、とてもブランクあるよ。あっさり終わったらごめんね」
「問題ねぇ。その時は十本勝負に変更だ。リハビリに付き合ってやるよ」
「ううん、結構」
チカリ、と視界の隅が光って上空に大きく避ける。
先程まで立っていた場は爆破され土煙が上がっている。
「初っ端からメテオラぶっ放してくるとか」
「今のはアステロイドだよ……」
いつの間にか背後に立っていた
は右手にスコーピオンを持っており、直撃をかわすべく体を捻るが、米屋の脇腹は大きく削られた。
「くそ…!」
悔しげに顔を歪めたのは
の方だ。
「はえー。気付かなかったわ」
「やっぱ相当鈍ってる」
腕を回す彼女は優位に立っているとは思えない顔で眉を下げた。
「今のは一撃で真っ二つにするところだったのに」
「俺だってA級だぜ?」
そう簡単にはやられねぇよと楽しそうに笑う米屋が
には理解できなかった。補習の時も影浦たちは模擬戦がしたいと笑っていたが、こんなのどこが楽しいんだろう。
理解できない、という複雑な感情が膨張し、抜いた弧月で受け太刀に回った槍ごと米屋を真っ二つにした。
「……は?」
出水のアホ面も理解できる。
真っ二つになったのはスコーピオンではない。槍の、柄の部分だ。イルガー程の強度はなくともそう易々と両断される代物ではない。
それが一振りで、それも米屋の体ごと裂けたのだから驚いてしまうのも無理はない。
「こんなことして目立ちたくないなんて無理がある話だよ」
横でシェイクをすする寺島が呟く。
「まぁ、本当に簡単に言うと『感情が高ぶるほど強くなるサイドエフェクト』とでも言っておけば納得できるんじゃないか?」
「サイドエフェクト……」
先程のメテオラのようなアステロイドもその力のおかげかと問えばただ単にトリオン器官が大きいのだと言う。
「恵まれたもんですね」
「そうでもないよ」
まるで当事者のような口ぶりで否定をするが、他の二人も何も言わないあたり、やはり過去に何かあったのだろう。
意を決して訪ねようとした時諏訪があーと声を発した。
「今のは痛ェな」
「あぁ。感度はいくつにしてあるんだ」
「実はこっそり下げたから今は4だ。それでも腕がもげりゃかなり痛いだろうね」
ニ戦目が始まって五分程経った時、膠着状態だった試合に動きを見せたのは米屋だった。
がスコーピオンを振りかぶったのを見て槍の形状を伸ばし先手を打って出た。振り下ろす勢いを圧し殺せずそのまま右腕を貫かれ大きく間合いを取った
は漏れるトリオンを惜しむように腕を掴み背を丸めている。
───否、寺島達の話を聞けば説明されなくともわかる。あれはトリオンうんぬんではなく痛みに堪えているのだ。
「何で痛覚なんか……」
「理由は色々あるんだけど、まぁ本人に聞いてみなよ」
「はぐらかされてばっかりだなァ」
「人の事を勝手にペラペラ喋りたくないだけだよ」
以前、諏訪も同じようなことを言っていたなと思い出す。堤から話を聞こうとした出水と烏丸に『本人のいないところで話すものじゃない』と言っていた。
それが大人の対応というのなら、自分と三つ違うだけでこうも見方が変わるのか、高校生には不思議だった。
「あ、
が負けた」
片腕になった
への容赦のない攻撃がベイルアウトさせ、これで勝敗は1-1。
さて三戦目はどうなるのかと思いきや、その勝敗は一瞬だった。
試合が始まってすぐ、米屋の頭部は弧月によって胴体から離されていた。
***
「なぁなぁなぁ!今のどうやったんだよ!」
「反則だよなぁ、もう一本やろうぜ!」
「…………うるさい」
出待ちの二人を確認してすぐにブースの扉を閉じようとしたがそれより先に腕をねじ込まれ阻止された。苦虫を噛み潰したような顔で二人からの逃亡を図るもこれだけ騒がれては移動する度に目立ってしまう。匿ってもらおうと寺島達を探したが、ロビーの端にある喫煙所で一服する諏訪以外姿が見当たらなかった。逃げられた、と舌打ちが零れる。
「あのさ、私は本当に目立ちたくないの。二人がこれ以上騒ぐならお前らを殴ってのしてでも静かに逃げるよ」
「ならどれか一つだけ答えてくれよ」
「俺はあの瞬殺する動きについて聞きてェな」
「俺は、何でわざわざ不便な痛覚を入れてるかだ」
出水の質問に僅かに目を見開いた。音もなく口を開閉させた後ため息に付随してでた答えはこうだ。
「死んだ姉と彼は、どれくらい痛かったのかなって」
周辺の空気が冷えるような声色にそれ以上は何も聞けず、こちらに背を向けて歩く姿を見送る形に終わった。
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