金曜日には賑わう居酒屋も今日は人もまばらで、そのおかげもあって四人は話のしやすい個室へと案内された。
呑み始めてしばらくは大学のことや隊員、今後の体勢についてなど普段と変わらない話に花を咲かせていたが、何をきっかけか、話は本題へと切り替えられた。
「
のトリガーはいじらなかったよ」
話を切り出したのは意外にも雷蔵で、こうなることは予想していたとはいえやはり風間は眉を潜める。
「どうした?お前ももう会ったって聞いたけど」
「……俺の場合は会ったのではなく見に行っただけだ。直接は顔を合わせてない」
「回りくどいなァ。一度会って殴られればいいんだ」
ビールを呷る諏訪は、あくまで
の味方らしい。「殴られろ」と言うのだから東のように風間のしたことを「正しい采配」とは到底思っていなかった。
「あいつが、お前みたいな単純なやつならそうしたさ」
「んだとォ?」
「でもあいつは、自分のされたことを怒りながらも、自分がした事を正しいとは思っていないだろうから、そう簡単には、いかないだろうな」
これが素面であれば何も言わず立ち去っていただろうから、やはりこうした場を設けて正解だった。更に言えば風間が酒に弱くて良かった。そう思いながらレイジは風間に水を進める。
「いっそ感情をぶつけて、助けでも求められたら、俺はああは出来なかった筈だ。その可能性を知りながらも、そうはしなかった。一人で対立する道を選んだ……」
差し出された水に写る顔はひどく情けなく不甲斐ないもので、つい水を避けてビールを呷る。頭が熱くなるのはアルコールが直接脳に昇ってしまったからなのかもしれない。そんな考えが浮かぶくらいに酔っているのに、その手はまだグラスを離せずにいる。
「あいつは、自分からまたこっちへ来たのか」
「んな訳ねぇだろ。レイジんのとこの後輩が見つけて、そっから上が連れてきたんだ」
紫煙をくゆらす諏訪を目で制しながら木崎が事の詳細をつまびらかにする。
「結局、何が目的でまた連れてきたのは、はっきりしないんだけどね」
今度は焼き鳥をつまみながら雷蔵が口を開く。
「近界民の襲撃に備えて人手が欲しいのかもしれない。それもただ狙われるC級ではなく即戦力を」
「俺は直接見たことねぇが、あいつのブラックトリガーってそんな強いのか?」
「早くて強い」
小学生か。そうツッこんでいいのか躊躇うほど真面目な顔で言うもんだから天才エンジニアのテンションはよく分からない。
「わりと人を選ばず起動できるのも利点だな。使ってるのは
しか見てないけど」
「また。ブラックトリガーを取り上げたいのか。上は」
既に舟を漕いでいた風間がふと意識を浮上させて呟いた言葉は他の三人を黙らせる。普段は平気なようでも、やはり今も抱える後悔を垣間見たからだ。
***
「会計してくるからおとなしく待ってろよ」
子供じゃないんだと反論する風間はしっかり目が据わっているため雷蔵はそのおもりとして側にいる任を仰せつかったのだが、鬼怒田からの突然の電話がつい彼から目を離させてしまいこの事態である。
「21にもなって迷子はねェだろ」
「甘いな諏訪。子供と違ってあいつは酔っぱらいだ」
「目を離したくせに威張るな!」
「仕方ない。俺は国道沿いを探してくる」
そして、そのお騒がせの風間はこうして少女の前に現れ、散々言葉を吐いては消えてしまいたいと自戒の念に駆られている。
『一度会って殴られればいいんだ』
そうしてくれたら、どれだけ楽か。
冷静になった今、まだ自分が彼女の前に現れる勇気なんかどれ程も足りてないかを思い知って、でもきっとそれは彼女だって同じことなのだ。
脳裏にこびりついた少女より幾分か大人びた彼女は、あの頃と変わらない痛みに耐えるような悲痛の面持ちで風間を睨み付ける。その目に膜が張られていくのをただ見ていることしかできないなんて。
「
、俺は……」
「大丈夫か、
っ」
空気は壊された。いや、壊してもらえた。
唐沢を見上げる安堵の表情は今となっては懐かしい過去の自分に向けられていたもので。
「俺は……」
何て言おうとしていたのか、続く言葉はもう浮かばなかった。
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