16.遭遇

玉狛第二の三人が並んで支部へ帰っていく様子を見届け、今度は横に並ぶ少女に声をかけた。

「本当に大丈夫か」
「心配性だなぁ唐沢さん。バイト帰りの方がもっと遅いんですよー?一人で帰れます」

はは、と笑う彼女の口から白い息が漏れる。それもそうかとつられて笑い最後にまた頭に手を置くと更に頬をあげて笑った。

「バス停は向こうだから、ここまでだな」
「はい!ごちそうさまでしたー!」

ぶんぶんと手を振る彼女に早く行きなさいと合図を送れば小さくお辞儀をして歩き出す。一人で歩く背中がとても心細く見えてしまうのも、本人にしてみたらはやり“心配性”のせいなのだろうか。

「………空閑君と、何を話していたのかな」


   ***

「犬は喜び庭駆け回り私は炬燵で丸くなる~~」

居酒屋の多い大通りではあるが、この日は月曜日だ。呑みに出る人などほとんどいないため人も車も通行するものは少なく、強いて言えば仕事帰りの人間を送り届けるバスばかりが目立つ。バスから洩れる光を頼りに家路を辿ると、ふと、一つの影が背後から伸びてきた。

「──はぁッ」

振り返りざま、咄嗟に足をあげる。鳩尾を狙ったが避けられたらしく、思ったほどの手応えはなかったがそれでも男はバランスを崩し尻餅をついた。

「……」

バスが通らない。ここは廃墟地の側にあるためか一度切れた電球はなかなか取り替えてもらえないため、男の顔を特定するには今少し明るさが足りなかった。

「……今はあんまり機嫌がよくないの」

痴漢相手に何を話しているのだろうと頭の隅で思いながらも、きっとこれも心のモヤモヤのせいだと言い訳すると言葉が止まらなかった。

「少し楽しい思いをすると必ず嫌な思いをする。あぁアンタのことじゃないよ。さっきの、彼らの様子がさ」

信頼できる対等な関係というものは自分にはない。

「なーんてヘコんでる時に痴漢とはね!」
「待て、

殴りかかろうとした腕がすんでのところで止められる。その上耳についたその声は、あまりにも不快で、嫌で、悲しくて、眉間に皺を寄せた時、声の主を確かめるようにバスは通過しその顔を照らす。

「……風間、隊員」
「今は隊長だ」
「そうですか。私には関係ないですけど。何の用ですか。ブラックトリガー、を、回収しに?」
「……違う」
「なら、なんですか。無断で姿を消したから捕らえに来ました?やっぱり記憶は消さないといけませんしね。仕事熱心だなァ、隊長様は」
「違うと言っている」
「……!」

捲し立てる声をピシャリと掻き消すような低い声に思わず肩を揺らす。掴まれた腕を振りほどいて一歩下がった。今更何の用だと言うんだ。

「……たまたま姿を見かけたから、つい声をかけただけだ 」
「………」
「何故、戻ってきたんだ」
「!なんだよその言い方……ッ私が自分から戻ったとでも?確かにボーダー隊員に話しかけたのは私だけど、あれよこれよと拒否権もなくまた戻されただけで、私は、私はもう関わりたくなかった!」
「なら、何故またトリガーを持った」
「……、……誰に聞いたんですか」

風間は酔いが覚める思いがした。
アルコールが入っているとはいえペラペラと喋りすぎた。誰から聞いた、なんて言ってしまえばあいつらへの信頼も無くなってしまうかもしれない。冷静になった頭がずんと痛むが、このまま黙っていても事態は好転しない。

「……」
「……嫌なら、嫌と、言えばよかったんだ」
「何なんですか。突然現れて嫌なことばっかり言って……っ」

先程までの怒号はしぼんで蚊の鳴くような声に変わってしまった。伝えたいことを言葉にすると全く意思とは異なる意味になってしまうのは呪いだろか。
今にも消えそうなを前に、心から消えてしまいたいと思っているのは風間の方だった。

、俺は……」

「大丈夫か、っ」
「からさわさん……」

俯いたまま「なぜここに」「バスは」と問うの背中を優しくさすって、目線は厳しくも風間に向けられた。

「後の事は俺が見るから、君達は帰りなさい」
「すみません、目を放した隙に」

背後から追ってきていた木崎がようやく風間を見つけて追い付いたらしく、事のあらましを察したのか小さく頭を下げて風間を引っ張っていった。

「待て木崎。……、」

視線は、一度も合わなかった。

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