15.類似

「疲れたのか?」
「……いえ、まぁ、そうですね」

煮え切らない返事のに頭をくしゃりとなで回す。すると目をつぶって満足げに笑うからまるで猫みたいだなと笑ってしまうが、もしこれが彼女の同級生に見つかって恋人、ましてや援交だと勘違いされたらと思うとぞっとしない。
未来ある学生のも営業部長としてあちこちに顔を出す唐沢もおかしな誤解で身を滅ぼすわけにはいかないのだ。

(そうなると、流石に制服姿の高校生と二人で食事と言うのはよろしくないか)

煙草の箱に手を伸ばすが歩き煙草はいけないと止められた。

「悪い悪い。どのみち煙草が切れそうだ。先コンビに寄っていいかな」
「はーい」

少ししゃべるだけで白い息がこぼれる程に寒く、手をポケットから出さずにすむ自動ドアにはわずかばかりの感謝の念を送った。

「あれ、三雲くんたち」
「ミクモ……どっかで聞いたことある」
「唐沢さん、こんにちは」

煙草を求めて入ったコンビニで玉狛第二の三人が仲良く中華まんを選んでいる。
は始めてみる中学生相手に挨拶もせずぼんやりと唐沢とは少し離れた所で突っ立っている。
特に会話に混ざるでもなく生意気な眼鏡ボーイを見つめているとふとバイト先のテレビで見た映像を思い出した。

「君、あの記者会見の少年か!」


「思い出したよ、あの記者会見でボロクソに言われてた子だよね!?」
「えっはい……」
「ハハッ!あれは良かったなー。上層部の奴らスケープゴーストにしようとした子に返り討ちにあっててさァ。ざまぁみろってね!」
、止めなさい」

唐沢が静かに咎める。口を閉じたはいまだニコニコと思い出し笑いを浮かべて三雲を見ていた。


「君たちも今帰りか?」
「はい、空閑が肉まんに興味があるらしくて」
「よーすけ先輩が食べてて美味しそうだったから」
「そうか。三人さえよければこいつと俺と夕飯でもと思ったんだけど」

驚いたのはだ。突然見ず知らずのガキも食事に加わるなんて。奢ってもらう身で文句は言えないができることなら帰りたい。

「その人は?」
だ。君たちと同じボーダー隊員だよ」
「初めまして、雨取千佳です」
「三雲修です!」
「俺空閑遊真、ボーダー隊員なんだ。初めて見るね」
「……どーもです。そっちこそ新人だよね。私4年前からいたからさ。まぁ出禁食らってたから知らなくて当然なんだけど」

出禁ではなくお前が姿を消したんだろう目ではそう文句を言いながら口にはしなかった。彼らにはまだ彼女の事情を語るほどのものではない。

「ん?今のは嘘なのかな」
「──うわ、見て鳥肌立った」

は空閑の持つサイドエフェクトについては何も知らないが本能的に何かを感じたのだろう。口だけで笑い唐沢の前に立ちふさがる。

「まぁまぁ、俺たちは味方同士なんだから。で、どうだい三雲君。夕食へのお誘いの返事は」

こんな気まずい雰囲気というのもあって丁重にご遠慮しようと思ったが「助けると思って」と先手を打たれては断れず、冷や汗をかいたまま「はい」と頷いた。


   ***

三雲のことは記者会見を見てから勝手に仲間意識に近いものを抱いていたし、そこに自分が絶大な信頼を寄せる唐沢のお墨付きとなればが玉狛第二を敵視する理由などなかった。

「遊真が近界民なのは見たときから分かってたよ」
「ほう。やっぱりは強いんだろうな」

お互いのあらましを話している間に机にはそれぞれの料理が運ばれ、ほかほかの白米と艶やかなハンバーグを前に幸せそうに微笑む千佳に皆が心和ませた。

「私も持ってるんだ。ブラックトリガー。父親、という点ではお仲間だね」
「では先輩はS級ですか?」
「いやぁ、どうなんでしょうね唐沢さん。判断が下される前に私は逃げたから」
「あの頃とは状況が違う。今なら君が堂々とブラックトリガーを所持できるからまぁS級だろうな」
「ん?さんはブラックトリガーを持たせてもらえなかったのか?自分の父親だろ?」
「あの頃は……今思うと恥ずかしいくらい全てに殺伐としてたからねぇ。遊真みたく、味方か定かじゃない人物のブラックトリガーは取り上げたくて仕方ないんだよ」

そうだ。あの時はレプリカの持つ情報と引き換えに許されたが彼女はどうしたんだろう。ここに来て一度も引かない冷や汗を流す三雲など気にも止めずは竜田揚げを箸でつまみ上げ口にいれる。猫舌には熱くて涙がでた。

「へぇ。ならS級になる前に手合わせしてもらいたいな」

適当に頷いてはいるが多分聞いてない。今は竜田揚げと戦うので精一杯なのだ。


   ***

「唐沢さん、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「いいよ、こちらこそありがとう」
「この間ほど出費なかったですね」

にやりと笑うはおそらく烏丸たちとの食事を言っているのだろうが、まずは礼を言いなさいと小突いた。確かにあの日の出費は大きかったが。

「二人は仲良しなんだな」
「そうだよ。唐沢さんは恩人でありお父さんなんだ。……第二の」

また拳骨を食らう前に早口で付け足すが少し離れたところで修や千佳と話しているため聞こえなかったらしい。

「なるほど」
「一人で生きられないときに沢山支えてもらった。返せないほどに恩がある恩人だよ」
「あぁ……なるほど」

脳裏に浮かぶ今はいない相棒の姿に、空閑はふっと頬が緩んだ。

「空閑はとても興味深いね」
「ん?」
「散々敵視されながら向こうの都合に合わせて使われるの、嫌な気分じゃない?」
「使われる、か。ないな。ブラックトリガーについてなら、俺は近界民だからむしろ使うのを禁止されている」
「ふぅん……」
「それに俺は本部のために戦うんじゃないよ。修や千佳の願いを叶えるためだから」

名前を呼ばれたのに気付いたのか少し離れたところにいた二人がこちらを向いて小さく手をふった。それに答えるよう空閑は彼らのもとへ足を進める。

「そっか。空閑は人に恵まれたんだね」

ため息のような声だった。
聞き逃した気がして顔を見ると「何でもない」と言った。
それが嘘だということはもちろん見抜いたが、日本人の「何でもない」は、時に「聞かないで」を意味するんだと最近学んだから、「そうか」とだけ言ってまた三雲たちのもとへ歩きだす。

敵の顔なら、嫌いな人の顔なら、怖い人の顔ならいくらでも浮かぶ。でも信じられる味方の顔なんてどれだけ捻り出そうにもその半分も浮かばないのに。

似てるようで、少し悔しいなぁ。
皮肉めいた笑みを浮かべ俯いたのを唐沢は間が悪く見つけてしまった。

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