14.回想





「B級に上がるのは簡単でした。うちの道場の試合稽古よりも。みんな単純な動きしかしないから」

父親の道場で剣道を嗜んでいると言うだけあって、真っ直ぐに伸びる背中がきれいだと思った。

「銃手相手によく弧月一本で立ち回れたな」
「3000点までは相手が当てるより先に間合いを詰めるのもなんてことなかったんですけど、3300越えると近寄るのも難しくて」

広く作られたロビーに人が溢れかえる日はそう遠くはないが、この時はまだソファーの空席が目立った。特に今は平日の昼間ということもあって、風間と以外に人気はない。

「その時に小南が射手ってのがあるって教えてくれたんです。銃だと刀持ちながら使えないから、その点射手はいいですよね」
「つまり、お前はアタッカーではなくオールラウンダーになるんだな」
「オールラウンダー?」
「近距離攻撃だけでなく中距離攻撃もこなす戦い方をするやつの呼び名だ」
「ゆくゆくはそうなると思いますが、今はアタッカーとして、風間さんにスコーピオンの使い方を教わりたい」

“期待の新人”が自分に声をかけてきたのは何の目的があってかと思いきや、流石にこれは予想していなかった。

「スコーピオンは少し前に迅たちが開発したものだ。俺はまだ人にとやかく言えるほどの技量はない。迅に聞けばいいだろう」
「あの人はほら、小南の言葉を借りれは暗躍が趣味だから 」
「趣味?」
「それに、私もスコーピオンは両手持ちがいい。風間さんの元で腕を磨きたいんです!」

真っ直ぐにこちらを見て楽しそうに笑う彼女を突き放せなかった。

「弟子はとらない。聞きたいことがあったらその都度来い。相談には乗ってやる」

それ弟子とどう違うのと言ったらきっと黙りこくってしまうだろうから、余計なことは言わずありがとうございますと告げると風間も少しだけ口の端を上げた。


「やはり折角身に付けたのだから弧月の方がいいんじゃないか?」
「向いてないですかねぇ」
「今のままならそうだな。受け太刀に回ることが多いし、結局スコーピオンを2本とも右手に出すのなら軽さくらいしかメリットないだろう」
「でもスコーピオンにしかできないことがあるからこれでいきます。それに私の腕じゃ弧月で上にのぼるには限界があるし」
「まぁそうだろうな。その行儀のいい太刀筋では先はない」
「へへっ」
「何だ、気色の悪い」
「風間さんの変に気遣わない歯に衣着せぬ言い方、とても好きです。だから私はずっと風間さんに勝てないだろうなぁ」



「もう、風間隊員にも勝ててしまう」




「風間」
「──ッ」

東が肩を掴む。自販機の業者がすみませんと前を通過した。

「あそこまでぼんやりするなんて珍しいな」
「いえ……すみません」

一度も目線はあげずぼんやりとしたまま謝罪をする。

「はぁ……そんな状態で今の隊員たちの元へは戻るなよ。あいつらなら何かあったとすぐ気付く」
「分かっています」
「俺は、あの時の采配に間違いはないと思ってるよ」

別れ際に肩を叩いて励ました言葉も風間にとっては無責任な評価でしかない。


「間違いはなくとも、最善ではなかった」

あの子の笑顔を自分も殺した。少しずつ笑わなくなった───元々あった傷を笑顔で隠していただけだとしても──恐らく彼女にトドメを刺したのは自分だから。


「辛気くさいツラだなぁ」

ゴツンと後頭部を小突かれる。そんなことができるのは諏訪くらいだろうし、案の定振り向いた先には木崎レイジと諏訪洸太郎がいた。

「今はお前らの顔を見たくないんだが」
「妬みをぶつけられる筋合いはねぇぜ」
「まぁそう言ってやるな。風間、今夜飲みに行くぞ」

お前の防衛任務がないことは雷蔵が確認済みだと言われてはもう逃げ場がない。自分より先に雷蔵へのアポをとったということは風間に話があるということだ。そしてその話題となる人物は誰なのか分かっている。
このまま一人でいても過去の記憶に責め立てられ何も手につかないのが分かっているため、ため息まじりに「……あぁ」と了承した。

<<  >>
Back