11.勧誘

生活というのはそんなに変わるものでもない。それは大規模侵攻の時から経験済みだ。
家が変わっても状況が変わってもの生活は変わらず学校に行きバイトに向かうその繰り返しだ。今までとの違いといえば誰かと会わないよう部屋を出るタイミングを見計らいコソコソとする必要があることだろう。

「ストレス。まじで」

誰に吐いたわけでもない一人言。
部屋でこっそり空けた缶チューハイのゴミをどこに捨てればいいかとか、部屋からシャワー室までの距離が余計入浴を億劫にさせることとか、最初は喜んだ角部屋もエレベーターが遠いから階段を使わざるを得ないこととか。エトセトラ。
彼女にとってここは不良物件である。唯一の利点は家賃、水道代等を一切払わなくていいことだ。

(といっても、アパートの家賃はあの人が払っててくれてたんだけど……)

赤の他人に何故そこまで世話を焼いてくれるのか。分からないけど聞いたこともなかった。貰いすぎる優しさに気付かないふりして甘んじている自覚があるからなお自分が嫌になる。

「そういえば同じ建物にいるはずなのになかなか会えないなぁ」
「誰に会えないんだ?」

唐沢ではない。が、とても懐かしい人の声がする。鍵を閉めてないからいつでも入れて楽だと言っていた

「諏訪さん!」
「早くしろ。もうすぐレイジも来るぞ」
「だから?」
「だァから、あいつがここ来る前に片付けなきゃだろ、それ!」

「それ」と指指されたのは何を隠そう几帳面に積み重ねられたチューハイの缶たちだ。ひえっと悲鳴をあげる。

「どうしようどこに捨てればいいのか分からないんですよ!」
「ハァ?そういうのはきちんとゴミ捨て場を把握してから……まぁいい行くぞ!」
「いえっさ!」

諏訪は19歳の彼女が飲酒していることを特には咎めなかった。曰く、「確かに触法行為だが、人に迷惑かけないなら別に」だそうだ。
外で呑むなよ売った側に迷惑かかるからとだけ言われ、それには素直に従おうとは「はい」と答えた。


「なんだか疲れてるようだな」

木崎が部屋に来たのは二人がゴミを出し終え換気をすませ、他に変なものはないか確認を済ませた、この上なく完璧なタイミングだった。慌ただしい準備に二人はげっそりしていることを除けば。

「と、ところで……二人は何故ここに?」
「お前がまた本部に来てるってのに挨拶しに来ねェからこっちから来たんだよ」
「俺は諏訪が暴れないかの見張りだ」
「えーわざわざすみません」
「あとあれだ。お前、トリガー受け取ったか?」
「いえ、まだです」

本部に軟禁されて、いまだトリガーは受け取っていない。というより、返してもらっていないと言う方が正しいか。

「私のノーマルトリガーは残ってるか怪しいですけどね。鬼怒田さん辺りが怒って踏み潰してそう」
「そうされる自覚はあんだな」
「トリガーは希少なものだ。きちんと保管してあるだろ」

勿論、の元へ訪ねる前に雷蔵に連絡してあるためトリガーが破棄されていない事は確認済みである。どこにあるかまではまだ分からないが。

「林藤支部長はお前がトリガーを持つことに対して了承した。判も押してある」

が本部長たちに呼び出された時、林藤は話を聞くだけで特に何かを発言した印象はなかった。
結局初日の呼び出しはが隊務規定をギリギリのラインまで破って姿を眩ませたことへの説教と、あとは大本命、彼女が持っていったブラックトリガーの行方についての尋問。この二つのみ。
勝手にボーダーとの連絡を断ったことについて鬼怒田達から激しく罵声を浴びせられたが、トリガーは置いていったことや、外部に情報を一切洩らしていないことが後ろ楯となり特に処罰は下されなかった。

「まぁその罰として監視下への軟禁なのかもしれませんけど」
「そうか……。どっちみち、本部長らの元へ話をしにいかないとな。トリガーを持つならもう一人分上層部のサインが必要だし、いらないにしてもこのままでは色々と支障があるんだろう」

レイジの咎めるような目にも諏訪も分かりやすく目をそらした。ようやく引いてきた汗がまた出てきそうだ。

「………。本部長の所へ行くって言ったら、ついてきてくれますか」
「だから今ここにいんだろ」

諏訪が乱暴に頭を撫でた。

「むしろ今日が絶好の日だな。あいつらどっちも今日は非番だ」
「……なら、行きます」

ありがとうなんて、照れくさくて口にはできなかったけど。

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