10.横顔



「いーよ、気にしないで」

割れた写真立てを見つめたままこう言った。

「100均で買ったものだから」

中の写真を丁寧に引き抜いて裏返し伏せる様子はまるで二人の目から隠そうとしているように見えた。

「なぁ、その人たち誰だ?」
「……」

先ほどから一度もこちらを見ることなく、写真に目を落とす横顔からはいつもの活発さは見受けられない。

「なぁ───」
「出水、血がでてるよ。塞ぎな」

顔面に突きだされた絆創膏は傷口だけでなく出水の口をも塞いでしまった。出水としても写真立てを割ってしまった上野暮なことを聞くのは気が咎めたのか絆創膏の礼だけ言って引き下がった。

「俺達これからロビー行くんスけど、先輩も来ますか」

場の空気を変えようと思ったのか思ってはないのか、烏丸がへ話を振るが、は先程同様静かな声で「いいやー」と答えた。

「トリガーの使用許可降りてないからまだ持ってないんだよね」
「別に試合観戦するだけでもいいじゃないですか。後輩たちにも会わせてやりたいし」

烏丸の言う後輩たちとは勿論玉狛第二の面々を指しているが、あわよくば空閑のサイドエフェクトを前にして色々と話を聞けたらと企んでいた。何せ彼女のことはまだ謎だらけだ。

「いやぁ私人見知りだからそんな大勢が集まるところに行けないよー」

あくまでこの部屋に籠ると言い張ると格闘の末、の右ストレートが二人を黙らせることに成功した。


   ***

「くっそぉ……トリオン体で行けば良かった」
「生身での攻撃で人が吹っ飛ぶなんて漫画のなかだけだと思ってました」
「だいたいの奴おかしいだろ!どんな肉体改造したらあんな腕力になるんだよ」

自販機がガコンと吐き出したよく冷えたコーラを頬につける。生身で受ける攻撃なんて珍しいからジンジンと痛む頬に涙が出そうだ。

「そういえば昨日部屋に入ったとき胴着がありましたね」
「は?柔道着?」
「いやそれが───」

「なぁ、お前らの言うそいつ、か?」

突然話に割って入り二人に凄む金髪の男、諏訪の様子はどう見てもカツアゲである。堤はへらりと笑い二人に挨拶をした。

「後輩からカツアゲですか諏訪さん」
「んな訳あるかッ!こいつらがちょっと気になる名を口にしたからよ」



「──……成る程な。大体の流れはわかった」

流石に大勢の集まるロビーではこの話ができないと、二人を連れて諏訪隊作戦室へと集まった。

「A級様と違って狭くて悪いな」という諏訪の自虐的挨拶に対し、思ってたより広いなどと返した出水は本日二度目の拳を食らった。

「つーか、あのゴリラは何でこのこと連絡よこさねぇんだよ」
「まぁ、まだここに連れてこられて二日ッスからね」

堤はここに残り、笹森は小佐野によって外に連れ出されたところを見ると、諏訪隊で彼女の存在を知っているのは笹森を除く三人らしい。

「諏訪さんはともかく、堤さんや小佐野まで知ってるとは……」
「オペレーターは少しだけ話を聞いてたみたいだからね。話したことあるかは知らないけど。諏訪さんとは入隊が近かったのもあって親しいみたいだ。俺や時枝、佐鳥なんかも面識はあるよ」
「へぇ……」

諏訪さんみたいに親しくはないけど、と残念そうに言って件の諏訪に目をやる。
諏訪はと言うと誰かに電話をかけていて、「いくじなし野郎!」と怒鳴ったかと思えば今度は別の番号にかけていた。

「年下と言うのもあるし、何より事情が事情だから。諏訪さんはかなり面倒みてたよ」
「事情って?」
「知らないのか?あいつのサイドエフェクトは───」
「やめろ堤。本人のいないところで話すものじゃないだろ」

ようやく知りたいことを知れるチャンスだった出水と烏丸にしてみれば蛇の生殺し以外のなにものでもないが、煙を吐く諏訪の姿はとてもじゃないが抗議できるものではなかった。

「そうだ出水、お前トリオン体の状態であいつに会ってないよなァ?」
「え?会ってないけど、何で?」
「……太刀川さんですね」

察しのいい烏丸は先日の朝食の事を思い出した。何か訳知りの太刀川とそれにありありと敵意を表す風間の姿。レイジと同じく四年以上ここにいる彼らならについて知っているに違いない。

「そういうことだ。出水の隊服が太刀川のと同じだと気付くかは知らねぇが、まぁ太刀川にいい印象は抱いてねぇから、念のためな」

<<  >>
Back