07.起床






骨というのは固いものだと思ってた。
「イカれてる」というのは冗談でいう架空の言葉だと思ってた。
空はどこまでも青いと思ってた。
人は助け合うものだと思ってた。
音だけで人を壊れないと思ってた。
食べ物には困ることはないと思ってた。
何かあったら、誰かが助けてくれると思ってた。
「任せろ」といったあいつを信じていいと思ってた。

あの人は私の義兄さんになって
姉さんは綺麗なウェディングドレスに身を包み幸せに笑うんだと思ってた。




「……っ」

少しずつ頭に入り込んでくる音楽がそれは夢だと教えてくれた。
逃げるように開いた目はその勢いで溜め込んでいた涙を流し頬を流れ耳を濡らした。妙な暖かさが気持ち悪い。

「……ラジオ、つけてたっけ」

ただの雑音だった音は少しずつくっきりと形を現し、部屋を満たす音楽に動きを止めた。

「あぁそっか。このラジオは……」

真っ白で無機質な部屋はぽつりと呟いた声を静かに飲み込んで、またノイズ混じりのラジオを響かせた。流れた涙は乾いていた。


「……」

昨日、唐沢にごちそうになってそのままの状態で寝てしまったため身体中が違和感を訴えていて仕方ない。制服を持たないためジャージ姿だったのがまだ救いだが、とにかくシャワーに入りたいし歯も磨きたい。怠惰な人間を描いたような状態に自分でも若干引いている始末だ。今は誰にも会いたくない。

「俺だ、入るぞ」
「うわぁああかえってフラグ立てちゃったぁぁぁ」
「うわぁ、女っ気のない格好だなぁ」
「というか鍵かけてないんスか」
「レイジさんとからすまるはともかく、なんでお前がいんだよ出水」
「相変わらずだな、喧嘩売る前に話をしましょう」
「その説は、申し訳なく……ッ」
「?」

三人の来訪により部屋は一気に騒がしくなり先程の陰鬱は忘れ去られるほど罵倒の嵐を浴びせられる。

「こいつが部屋に鍵をかけないのは前からだぞ。良かったなお前ら夜這いし放題だ」
「レイジさんもそういう冗談言うんですね」
「いや、前に諏訪がそう言っていたのを思い出してな」
「ふん、やれるもんならやってみろですよ」

返り討ちにしてやると笑う顔も寝起きとあってはいまいち締まらない。

「ところで三人は何をしにここへ?」
「今朝唐沢さんから連絡があってな。お前がしばらくここに入れられるから家から必要なものを運んでやれと」

車が運転できて大きい荷物を運ぶ力もある木崎レイジは確かに引っ越しに関してこの上なく適任だ。後ろにいる烏丸はアルバイト兼手伝いとしてついたきたらしく、出水は早朝の防衛任務から帰還したところ、面白そうなのに出くわしてついてきた野次馬だった。

「助けてくださいレイジさん。ここに住むの嫌なんですけど」
「あぁ。林藤支部長に言って玉狛に移れるよう計らってもらうこともできるぞ」
「……」
「小南とは一度ゆっくり話し合った方がいいんじゃないか」
「……。……家、行きましょ」

ぐしゃぐしゃのベッドから起き上がって本部に取り付けられたシャワー室へ向かった。
あそこはよく徹夜明けのエンジニアが使っているが大丈夫だろうか、昔シャワー室を使っていたと遭遇した冬島が悲鳴をあげた事があったからレイジはエンジニア達が心配だった。

「レイジさん」

遠くを見ているレイジを呼ぶ烏丸の声に意識を戻す。

「小南先輩とは知り合いなんですよね」
「あぁ。4……いや3か。3年前まではよく本部に連れてこられて防衛任務に当たることも多かったからな」
「えぇ?、いたかなぁ。全然記憶にないや」
「そうですね、C級ならまだしもB級になれば顔と名前くらい一致しそうなものですけど」
「あの頃は今みたいに確立した戦い方もなかった上に、B級ソロだったからな。印象が薄かったんだろ」
「それだけですか?」

迅からは聞いていたもののここまで食い下がる烏丸は珍しい。彼がここまで興味を示すのだから案の定横にいる出水もまだ隠し事をしてると確信してその場を動こうとはしなかった。

「今話せるのはこれくらいだ。聞きたければ本人に許可をとれ」

先ほど会った風間の様子を見る限り、聞いたところであいつはそうぺらぺらと話すとは思えないが。

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