06.勾留

「唐沢さん、ご馳走さまでした」
「うまかったす」
「ありがとうございました」

気にしないで、と手で制する唐沢の顔は笑ってない。
それもそうだ。人の金だと遠慮の知らない男子高校生が三人もいれば会計時に二度見するような額にもなってしまう。が気を遣ってデザートを控える程だ。───その気遣いに気付いた唐沢が遠慮するなとメニューを開いたため結局チーズケーキを食べられた───

「大丈夫?唐沢さん」
「ま、たまには大勢で食事するのも悪くないよ」

少し前方の車輪止め付近で駄弁る男子高校生を見つめる目はどこか遠くを見ているようだっだがあえては突っ込まなかった。

「それより、君は大丈夫かい?」
「とっても大丈夫ですよー!」
「……
「……、大丈夫です。逃げて逃げて、結局あの場に戻って改めて思いました。最初から敵だと思っていれば何も怖くありません」

本当に平気な人は大丈夫なんて言わない。人を敵と認識するような状態を大丈夫だなんて言わない。きっと大丈夫じゃないことは本人が一番分かっているはずなのに。指摘した所で自分がどうにかしてやれることはない無力な大人は納得したふりをして「そうか」と呟いた。


、家はどこ方面だ?途中まで一緒に帰ろう」

いつの間にか駐車場の端まで行き着いていた村上の声が車の音に混ざって聞こえてくる。
交通量が多いこともあり声は少し聞きづらかった。

「うん今行く」
「いや、だめだ」

思いがけない言葉に皆の視線は唐沢に集まる。当の本人は店で吸えなかった分堪能するように大きく煙を吐いた。

「迅くんに言われていてね。もしかしたらまた姿を消すかもしれないから今夜は本部に泊まるように言ってくれって」
「消えるもなにも、唐沢さんなら……」
「わかってる。わかってるが、今後どういう対応を向こうが求めてくるか分かるまでは無駄に歯向かう事はないよ」
「……」

不機嫌丸出しだった。バイト先で合ったときは読めない人だと思っていたが、意外と感情を表に出す辺り迅より小南に似ているかもしれないと思いながら、烏丸が興味本意で口を開いた。

「本部が嫌なら玉狛はどうです?あそこなら常駐もいるし本部と同じ役割ができる」

小南先輩たちも会いたがっていると付け足せば返事はすぐに否と返される。

「本部に行く」
「まぁ、そういうだろうな。部屋は鬼怒田さんが用意してくれているらしいから行ったら一言言うんだぞ」

はぁいと返事だけして、本部に行く振りをしてそのままとんずらしようと企んでいただったが、唐沢から「またね」と言われてしまってはこのまま蒸発するわけにも行かなくなってしまった。分かって言ってるのだからなんとも意地の悪い人だと思う。

「はい、また明日……」


   ***

「ぽっぽっぽ~鳩ぽっぽ~金がほしいかそらやるぞ~」
「耳障りな歌が聞こえると思ったらお前か、

深夜のラウンジ。人がいないのをいいことにソファーに寝そべって十八番を歌っていたは鬼怒田の声に盛大なため息を吐いた。

「せっかく静かで良かったと思ってたのに。耳障りなのはお互いさまでしょ」

体を起こしてやる義理はないからと寝そべったまま反論するに可愛いげがないとは言うだけ無駄だ。自販機がガコンと何かを吐き出し、ラウンジには珈琲の薫りが漂う。こんな真夜中に珈琲とは、まだ仕事中なのだろう。あの狸はいつ寝てるのか、はたまた本当に妖怪なのではないだろうか。そんなことを考えてにやけているなど露知らず、鬼怒田はまた不服そうに声をかける。

「お前、ここで一晩過ごすつもりか」
「何ですかそれ。本部の監視下に置くって決めたのはそっちでしょう」
「そうじゃない。このラウンジで寝るのかと言っておる」
「やぁだ鬼怒田さん。心配してくれてるの?年取って丸くなったんですね」
「明日ここに来た隊員達がお前の寝顔を見る羽目になっては不憫だからだ」

わざとらしく音を立てて投げられた鍵を反射的に受け取ってしまう。

「部下たちに荷物を運ばせてある。お前はその部屋を使え」
「『部下たちに』ね。相変わらず人を使うのがお上手なことで」
「そこで活きる人を使うのが最も効率がいいだろう」
「……そうやって現場のことを知ろうともしないから、好きなこと言えるんですもんね」

吐き捨てるような言葉に何か言い返そうとは思わなかった。ここで水掛け論を続けるより早く戻って作業の続きをする方が鬼怒田にとってよほど有益であるから。


ロビーで寝るには少し肌寒い。人がいないのだから室温調整などしてもらえないらしく、大人しくひとつ上の角にあるらしい部屋へと移動した。
何もない白い部屋。精神病棟のようなこの部屋にまた帰ってくるとは思わなかった。
暗くなる気持ちを抑えつけるようにベッドへ体を投げつけた。
布団は冷たくて少しかびくさい。

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