結局あの後は吹き出したオレンジジュースの片付けやどういった経緯で見つけたのかを問いただしてくる宇佐美や話しなさいよと騒ぎ立てる小南の対処に追われそれ以上の情報は入手できず仕舞いだった。
ならば本人に聞くのが早い。幸いにも烏丸がバイトに行くとその女は必ずいる。彼女も金銭的に困っているのだろうかと余計なお世話を考えながら、今度は針を刺さないよう注意して名札を外し退勤する。その間に彼女はさっさと帰ってしまったようだ。
***
「待って」
まだ遠くへは言っていないだろうと追いかけた先、急ぐわけでもないのか足をあまりあげない歩き方をする目的の人物は烏丸を見るとウゲェと顔をしかめた。
「アンタ、未成年だったんでしょ、次からはやめてくださいよ」
「ねぇからすまるってそれ名前?」
「からすま、ですし名字です。質問で返さないでください」
未成年に酒を売ったなんて知られたら、買った本人だけでなく売った店も、店員個人にも罰金が課せられるのだと文句を言うと「それは悪いことをした」と口先だけの謝罪が返ってきた。
「次からは他所で買うよ」
「いや、そもそも飲むのがまずいでしょ、未成年なんだから」
「4月生まれだからほぼ20歳みたいなもんだよ」
「ほぼは通用しませんよ」
彼女もまた烏丸の周りに集まる掴み所のない人物の一人ではあるが、初めて出会う人種であるように思えてつい会話を続けてしまう。それを断ち切ったのは彼女の方だった。
「さて、お前はこんな話をするために呼び止めたんじゃないでしょ」
面倒くさそうな顔を浮かべて話を切り替える姿にそうだったと思い出した烏丸はどこからかトリガーを取りだしわざと彼女から見えるように構えた。
「少しお聞きしたい事があります。大人しく玉狛支部に来てください。さもなくば無理矢理にでも引っ張っていきます」
「隊務規定違反だよ、それは」
明らかに不利な状態にあるのに、楽しげな表情を崩さないのは何故だろう。トリガーを握る手が力む。
「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘の禁止』。やはりこの位のルールは知ってましたか。脅しは失敗だなぁ」
「それに烏丸君、君が何級かは知らないけど私は今C級だから、『何があろうと訓練以外でのトリガーの使用は禁じ』られてるんだよね」
「え?」
今の言葉は予想していなかった。
初めて会った時から烏丸がボーダーであることを知らなかったのは分かっていたが、彼女は『C級は何があろうとトリガーの使用は禁じられている』と言った。
しかしそれは三雲による市街地での市民救出以降規定が変わったはずだ。緊急時の市民の救出などを理由とした使用は可能となったのだ。
それすら知らないというのは、C級としてもどうなのだろうか。
「あの、もう帰ってもいいかな。あんまり遅いと父親がうるさいんだよね」
時計を指差されては否とは言えず、新たな疑問を残す形で解散となった。
「また宇佐美先輩に聞いてみるか」
ポツリと溢した一人言に、帰路を急ぐはずの彼女は反応を示したこと、烏丸は気付かずに立ち去ってしまった。
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