「へぇ、君、ボーダー隊員なんだ」
バイトの支度のため、ビルの一角にある休憩室で指定服のエプロンを着ていた時の事だ。
烏丸の前に立つ女は独り言のように呟いた。
「……や」
どこのバイトだろう。食品フロアでは見たことないから、恐らく上の階の人だろうな、服からして本屋か、カフェだろうか。というか何故急に声をかけてきた?そういった様々な考えがあった上での「…や」である。もさもさした男前が聞いて呆れる。
女の方も本当にただの独り言だったのか、烏丸に目もくれずタイムカードを打って休憩室を後にした。残されたのはなんとも微妙な顔で固まる烏丸一人のみ。
「何で俺がボーダーって分かったんですか」
数日後、偶然休憩室にあの女を見つけ声をかけた。女の方はというと露骨に烏丸を不審がって目を細めていたが、今の発言に思い出したのか「あー…」と息を漏らした。
「ボーダーの奴らってさ、少しだけ過剰反応するんだよね」
「は?」
「君あん時さぁ、名札の針、手に刺したでしょ」
そうだっただろうか。あまりに些細なことだったのであまり記憶にはないが話はそのまま進んでいく。
「トリオン体って痛覚切ってるから、こういう地味な痛みを前にすると無意識に驚く奴多いんだよね」
気だるそうな話し方がなんとなく耳につく。「そういうもんなのか」と返すと「そういうもんだよ」と女はオウム返しをした。
「じゃあいくわ」
片手を顔の横まであげて部屋を出る彼女を見て自分もシフトの時間だったことを思い出した。
***
店内には閉店を告げる「蛍の光」のオルゴール曲が流れ、まだ買い物かごを引く客が慌ただしくレジへ向かうなか、のんびりと手に籠を持ちレジにやってきた女性を見て、烏丸はつい声がもれた。
「あ」
「あぁ、やっぱり食品階の人だったんだ」
女の方も烏丸を見て「やっぱり」と知ったように答えるから、もさもさした男前は少し動揺する。他にも聞きたいことが無いわけではないが今はバイト中だし向こうも今から帰るのだろう。足止めするほど重要な用事もないため、黙ってかごに入れられた缶チューハイとカップ麺を打ち込んでいく。
一人暮らしのおっさんみたいなラインナップだなとは、顔にも出さなかった。
***
「宇佐美先輩、
って名字の人、ボーダーにいましたっけ」
「ん?
……とりまる、あんたが女の子に興味持つなんて珍しいじゃない!」
空閑がおやと首を傾げたのは烏丸が名字を言っただけでその
が女だとわかった小南に対してだ。知り合いなのだろうか。今まで一切聞いたことない名前だったが。
「小南先輩にはまだ話してませんでしたっけ。実は俺、生き別れの姉がいるんです。もしかしたらそうかもって思って」
「生き、別れの……!?」
わなわなと震える小南に嘘ですけどと告げて小南が怒る。いつものお決まりの展開だが、いつもと違う点が一つ。
「どうしたんだ?小南先輩、しおりちゃん。顔が笑ってないぞ?」
空閑の声に我に返った宇佐美は跳ねるように烏丸を見る。
「その
ってさぁ、少し髪の伸びた女版風間さんみたいだった?」
「ブフォッ!!」
「ちょっと汚いわね修!」
「……まぁ、そんな感じでした」
「ブッファ!!」
「こ、小南先輩こそ汚いじゃないですか!」
今まで黙って皿を拭いていた木崎レイジがその手を止めた。
「あいつ、まだこの町にいたのか」
「んふふ~なんだか私安心しちゃった~」
木崎は僅かに口角を上げ、宇佐美は隠しもせず楽しげに笑った。
「宇佐美先輩、誰なんですか?その
って人は」
「まぁ詳しい話は追々するとして、ボーダーの隠れ実力派、
ちゃん、19歳だよ」
とりまるは合ったこと無かったわね、と納得する小南とは対照的に、未成年と聞いて今度は烏丸が吹き出す番だった。
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