気付かされ反省

昼休みのピークを終えて、ふと壁に掛けられたカレンダーが目につき指折り数えてみる。卒業までに食堂を使う回数と今回のバイトの時給分の食券、わりといい勝負になってると思う。むしろ余らないか?これ。
2月3月って昼飯が必要な登校ってどのくらいあるんだろ。余らせたくねぇ。

「なんか難しい顔してるネ」
「天竜ってもしかして暇なのか?」
「そんなわけないデショ。部活は午前中までで午後は自主練なの」
「へぇ、昼は何食べる?」
「暑いし食べる気しない〜」

ならなんで食堂に来たんだろ。ただのアルバイトの俺に出せるものはキンキンに冷えた水くらいなもんだが、天童はなんとも不満そうな顔を向けて来る。生意気な顔だけど、昔一度冷たい態度をとってしまったにも関わらず普通に話しかけてくれることについては正直有難かったりするんだよなぁ。絶対言わないけど。

「なんか従業員特権でまかないくれたりとかないの?」
「ない。バイト先ならまだしもここは学校だぞ」
「どこでバイトしてるんだっけ?」
「ナイショ」

今日の天童は随分ぐいぐいだ。ここでうっかり居酒屋の店名を言おうものなら絶対押しかけて来るだろうから黙ってよう。ムンとロを閉じた俺を真ん丸の目が見透かそうと目を離さない。これをネットの向こうで食らう相手チームは確かに可哀そうだ。

クンはこの夏はどっか行った?」
「サッカー部の試合に補欠として付き合ったり、居残り組のバスケ部に混じって練習試合に出たり……」
「旅行的な意味で聞いたんだけど」
「あはは、そんな余裕はないなぁ」
「というかよくそんな色々な部活に顔出してるね」
「バレー部だってスタメン組は合宿に行くだろ。居残り組の試合や補欠だから実力より頭数を求められてるんだよ」

器用貧乏だね、といまだ机になついたまんまの天竜をひっぺはがしたい。おばちゃん達だってもう帰りの準備を始めてるし、俺もそろそろ……

「あ、ちょっと待ってろ」

そうだそうだ丁度いいのがあった。ダメ元で調理担当の社員さんにお願いしたところ大っぴらにしないことを条件に許可を貰えた。食券なら余るほどあるし使っちゃおう。

「はい、おまちど」
「え!?かき氷だ!」
「廃棄予定の桃缶があったから特別。他の人には内緒だからな」
「そういうイベントを俺で消費していいわけ?」
「ん?」
「まぁいいや!いただきまーすっ」
「食べ終わったら皿置いといて」

助っ人として数日行くだけでもこの炎天下の中運動するのはしんどいのに、それを毎日やってるんだから本当に尊敬するし、そのうえバレー部と来たら多少贔屓もしたくなる。机と椅子を拭いて食洗器に残っていたものを棚に片付け各調理器の主電源が切れてるかを確認。

「ごちそうさまっ」
「おそまつさま」
「かき氷のお礼に、体育館入れてあげよっか?」
「ん?」

冗談だろう、天童だし。俺が調子づいて行きたいと言った途端嘘だよーんとか言って心を折ってくるに違いない。それこそ中学の時から何度も試合中の意地の悪い姿見てるんだからな。

「なんか失礼なこと考えてるでショ」
「冷静な分析をしてるんだ」
「後で泣いてお礼を言っても知らないからね」
「………まじ?」


   ***

「いや、やっぱ止めよう。空気読めなさすぎる」
「大丈夫大丈夫!他の部の人も鍵置きに来たりして出入りしてるから」
「出入りしてるだけで留まる奴はいないだろ」
「意外とちっちゃいね」
「うるせ」

天重に連れられて体育館の通路を渡り、入った事のない小部屋に案内された。言ってた通り色々な部活の鍵がかかってる。小学校の放送室がグレードアップした感じだ。

「ここの窓、向こう側から見ると暗くなるから体育館の中見放題なんだよネ」
「わぁすげえ!ありがとう天童!」
「どういたしまして」

セッターの白布は好きじゃないけどあの献身的なトスは見ていて気持ちいい。あんなに自然なクイックを目の当たりにして感動すらしてしまう。

「綺麗だなぁ……」

この間も思ったけど、やっぱり俺は若利のバレーしてる姿が好きだ。興味関心と実力が伴ってるなんて贅沢を他の事で邪魔していいわけがない。

「バレー部の練習が終わるまでに出てけば大丈夫だから」
「うん。夕方には居酒屋の方のバイトがあるから、もう少ししたら帰るよ。ありがと」

天竜はこそばゆいと眉間にしわを寄せた目でひと睨みしてトイレに行くと部屋を出て行った。部外者を一人にするのはどうかと思うけど。

「おー、ジャンプサーブが当たり前ってか。凄いな、どれだけの回転をかけたらコート内に落ちるんだ」

後ろでドアが開く音がした。天童が戻ってきたらしい。 今のワンタッチ後のフォローについて解説してほしいのに、ずっと黙ったままだからさすがに振り返ると全く予想外の座敷童が俺と同じくらい驚いた顔して突っ立っていた。

「あ、いや、天童が入れてくれて……」
「絶対、ただのクラスメイトじゃないですよね」
「うん?」
「この間も牛島さんがわざわざ休憩時間に飲み物持って行ったのも貴方でしたよね」

う、あの洗濯の日か。隠れてたつもりがやっぱり中からも見えてたんだな。

「それは……悪い、バイトの途中でつい見つけちゃって、注意されてたんだ」
「そうですか」

しんだ目をこちらに向けたままじりじり近づいてくる姿に俺の方も後ずさってしまう。天童早く帰ってきて。

「あの、救急箱なら向こうにもあるのに、なんでここのを使うんだ?」
「貴、方には関係ないじゃないですか」
「そうなんだけど、午後は自主練なんだろ?怪我を隠してまで行うのはあまりいい考えとは思えないんだけど」
「………………」

俺が言わなくても本人が一番わかってるだろう。これは完全に余計なお世話だが、見て見ぬふりをするには少しだけ、一方的に情が沸いてしまっている。

「マネージャーでもないのに、口出ししてこないでくださいっ」
「───、」
「たとえ貴方が牛島さんと親しいクラスメイトだからって、部活の時間までは関係ないじゃないですか。夏休みは部活の為に学校に来てるんです、校内合宿も練習もバレー部のための時間です、部外者が冷やかしで邪魔しないでください」

どれも心臓にガツンと刺さったのは、俺にその自覚があるからだ。
許してくれる現状に甘えてつい見ないふりしていたものを改めて表面に引き上げられた感覚で、言われたことへの怒りよりもずっと、浮ついた気持ちを冷まされた事への恥ずかしさがあった。

それと同じくらいの───

「そうだよな」


───羨むのは、お門違いだって


「ごめん、本当に五色君の言う通りだな!ちょっと最近調子乗ってた」

後輩に指摘されて我に返るのは恥ずかしいけど、今の段階で気付けて良かった 。

「あれあれ〜工と楽しそうに話してる?」
「うん、ちょっとな。ありがと天童」
「もう帰るの?」
「バイトの時間があるからさ」

何でもないふりをした。そうでもしないときっと何かしら情けない姿を晒しそうだったから。
 
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