だけいていていいよ


「若利、インハイ優勝おめでとう」
「あぁ」
「相変わらずのポーカーフェイスだなぁ。宮城優勝は当たり前だった?」
「白鳥沢に勝てる学校はないだろう」

高慢な答えだがこれが見下したり自慢をしようという気がなく本当にそう思って言っているだけだからたちが悪い。

「あぁ〜これか。なるほどなぁ」
「なんだ」
「いや、この間及川に会ってさ、言われたんだ。『悪意がないからこそ腹立つ』って。今ちょっと分かるかも」

当事者じゃない俺はあまり気にしたことなかったけど、確かにこれを面と向かって言われた及川たちはさぞ腹がたっただろう。あのニヤケ面が歪む姿は面白いだろうなぁ。女子たちには見せない顔だろう。想像するとおかしくて笑いがこみ上げたが、いきなり腕を掴まれては長々と笑ってもいられない。

「ど、どうした?」
「……、いや」

座っている若利は自分から腕を伸ばしているというのに今の出来事がよくわかってないみたいな顔でこちらを見上げている。そこそこの力だったし何でもない事はないんだろうけど、言おうとしないなら無理に聞くこともないか。

「そう。ならいいけどな。じゃ」
「あぁ」

ちょうどいいタイミングで予鈴も鳴ったしなんとなく微妙な空気が流れそうだったからそのまま教室を出た。いつもみたいな軽いスキンシップもなんとなくできない雰囲気で。


   ***

クン」
「さとりん」
「その呼び方やだってば」
「さとりんさといもさとぽっぽ〜〜〜」
「何その呪文、怖いんだけど」
「昔のドラマ。見てないのか……」

俺はあれ好きだったんだよ。バディものでさ、お互い喧嘩しながらも常に相手を気遣って、心配して、一緒に傷ついて。こんな関係性の相手がいたら幸せだろうなぁって思ってる。フィクションドラマに憧れてるから、現実の俺はつい求めすぎてしまうのだ。今はバレーが相棒な俺の好きな人。

「凄いこと教えてあげる。耳貸して」
「ジャパン、ユース……日本代表ってことか?流石だなぁ」
「でしょ。まだ内輪の話だから人に言っちゃだめだよ」
「おいおい、なら俺にも言うなよ」
「だってクンは“特別”でしょ」

ポキン、とシャー芯は折れ黒い粉がプリントに散った。それを見てニンマリとした笑みを浮かべているが、俺はと言うと嫌な寒気をさせて「若利から聞いた?」と尋ねるしかなかった。覚は更にケタケタと笑った。

「見てれば分かるよ〜」
「うっそ……そんな分かりやすいかな」
「さとります♡」

やっぱあのドラマ知ってんじゃん。
俺がそんなことをツッコんでいる間に覚は手をブンブン振りながら教室を出ていった。なんだあいつ、大事な時期だから邪魔するなよという牽制だろうか。いやんなことしそうなタイプじゃないしな。

「まだ公表されてないならおめでとうとは言えないしなぁ」

何より今は試験前だ。バイト族の俺と違い毎日部活に追われる多忙な若利の貴重な勉強時間を奪いたくない。

〜英語の宿題で出たヘレン・ケラーの和訳が納得いかなくてさぁ」
「どこの部分だい教えてやろう」
「さすが、英語だけは優秀なやつ……!」
「世界史だってお前より点数良かっただろうがッ」
「お前ら二人とも俺の面倒も見てくれよ」

今回は半分以上の教科でこいつに買って昼飯を奢らせる。高二から続けてる勝負は今のところ1勝2敗だし今回は負けられない。今回はバイトも休みもらって缶詰だなぁ。給料の仮計算をしようとスマホを取り出したタイミングで若利からメッセージが来て驚いた。

[試験勉強に付き合ってほしい]

簡単な一文だが、俺としては若利の方からメッセージが来たということが嬉しくてたまらない。すぐに勿論と返しいつがいいかを伺って、返事が来たのは既読がついて20分経った後だった。

[それじゃ、土日の部活で怪我すんなよ]

最後に送ったメッセージに既読がついて終了。そういえばメッセージもインハイより前にやったきりで久々だ。

「んっふふ〜」
「何笑ってんだ気持ち悪ぃ」
「はんっ!来週の月曜日牛島若利と勉強会する事になった」
「お前ほんとにあいつのこと好きな」
「ウシワカにマウント取れんなら俺も行く!」
「お前は教わる側だろばか」
「お前らどっちも呼ばねぇよ」

何故ならこれは本当に久々のデートなんだから!


   ***

「若利!」
「もう終わっていたのか、早いなそっちのクラスは」
「うちの担任話短けェから。いいよ、支度ゆっくりで」

浮かれすぎて下校の挨拶後すぐ教室を飛び出してしまった。若利のいる通路反対側の空席に腰掛けて支度が終わるのを待ちながら家にあった菓子類を思い出していた。飲み物は買って帰った方がいいかも。

また来たの?」
「うちらのこと超好きじゃん」
「たかりや達がなんか言ってるわ〜俺は若利に会いに来てるんですぅ〜」
「勉強教わりにでしょ」
「ふん、英語に関しては俺が教える側」
「まじで?じゃあ今度うちら───」
「待たせた。行こう」
「おう。じゃあまたな〜」

教室を出た若利は足早に歩いたと思いきや頻繁に後ろを振り返り俺の様子を伺っている。どうしたんだろ、まぁ確かに時間は惜しいよな。
追いつこうと校門まで小走りで駆ける。若利はピタリと動きを止めていた。

「?若と……」

学校前の電子掲示板にはこの間のインターハイ試合の写真がスライドショー形式で映し出されている。どの写真が写った時か、若利の雰囲気が明らかに変わった。

「……」

インターハイ優勝、日本代表に選ばれ、すべて好調なはずなのに。

(どこを見てんだよ)

なんでもない、ただの土日練習じゃなかったのか?春高にはまだ早いだろうに、久しく見なかった何か獲物を見つけたような顔。
バレーに関して、俺は外野だ。若利が楽しそうな顔を覗かせるのはいつもバレーで、そこに俺が介入できないのは分かってる上での付き合いだ。なのに、こと今回に関しては何故か嫉妬のようなものを感じて仕方ない。


「若利、やっぱり勉強はまた後日にするか?」
「なに?」
「いや、今やっても身に入らないだろうと思ってさ。俺はバレーの練習相手は務まらないけど、英語ならお前が苦手なとこまとめておけるから教えてくれればやっておくよ」
「……何か予定ができたか」
「なにもないよ。俺は」
「なら問題ない。早く行こう」
「えぇ〜走るのかよ〜」

制服着て二人で並んで走るなんてなんかよくある青春マンガみたいで笑えた。
あからさまに顔に出ちゃったかな。気を遣わせてごめんな、若利。
 
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