しさばかりれ上手

[今度の日曜空いてる?]
[近くの大学へ練習試合にいく]

[わかった。また声かける]
[ゆう]

「……"ゆう"」

俺が速さで若利に勝てる事と言えばフリック速度くらいだろう。若利が何か言おうとしたタイミングで送信してしまったせいで二文字だけ中途半端に送られてきた。何か言いたいことがあるらしい。

[夕方なら会える]
[会えるなら嬉しいけど、疲れてるだろうし無理しないでいいよ]
[よくやる相手だから問題ない。会いたいと言うのなら会おう]

「『俺も会いたいから』なーんて言うわけないかー」

元カノ達からのメッセージと比べても仕方がないが、面と向かっては勿論、文章ですら相手から求められる言葉がないというのは些か不安になる。バレー一辺倒の男だから恋愛というものに疎いのかもしれない。あくまで友達の延長線か、もしくは、言わないだけで冷めているのか。

「考えても仕方ない」

いつもどおり場所と時間を決めて連絡をおくる。最後に分かったと簡素な返事が来たのを確認しディスプレイを消した。向こうは忙しいんだからわがまま言ってはいけない。そう言い聞かせて。


   ***

待ち合わせをしてあいつが先に来ることはまずない。今回も俺のが先だった。練習が長引いているのだろう。理由が明白なので焦ることも怒ることもないが、強いて言うのならやはり申し訳ない。本当なら自主練に励みたいだろうに、俺のワガママで呼び出してしまうのだから。


「来た」
「すまない、時間に遅れた」

練習で疲れてるんだから走ってこなくてもいいのに、このくらいなんてことないという若利は確かに少しも息を乱していない。さすが。

「微塵も気にしてねぇよ。それよりちょっと、ジャージ脱いでくれ」

俺の説明不足に何の文句も言わず、ぽかんとした顔で言われるがままジャージを脱ぐ仕草がこれ、可愛い!と思ってしまうので俺はもう完全に惚れてる。誰にも言えないけどマジで惚れてる。自分がクィアだと確信しつつ、手提げに入れてきていた黒いパーカーを若利に差し出した。

「なんだこれは」
「パーカー。大丈夫、ちゃんと洗ってあるし、オーバーサイズだからつんつるてんにはならないよ」
「………」
「えい」

いつまでもパーカーを睨んで動かない若利の肩を前に引いてエナメルを抜き取り、無理やりパーカーを羽織らせる。流石にファスナーをしめるわけにはいかないが、これで白鳥沢の文字は隠れるだろう。ひっくり返っているフードを直してお終いだ。
結果としてハグみたいになってしまったが、ただパーカー着せただけだから、耳を赤くして固まらないでほしいな。

「よし。お前は有名人だから、学校ジャージじゃ目立つだろ?」

真っ赤になった耳はあえて指摘せず、つとめて冷静な顔で預かっていたエナメルを返したのだが、なんともぎこちない手を伸ばしてくるからつい笑ってしまった。


「ごめんごめんっ。というか俺が着るより似合ってるなそれ。若利にあげるよ」
「では服代を払おう」
「いいって。俺が好きで押し付けたようなもんだから」

エナメルを掴む手が俺の指に触れる。本当はこのまま指を絡めて手を繋ぎたいが、ここは外で、俺たちは"友人"でなくてはならない。せめてあと少しだけ触れることを許してほしい。エナメルと、俺の指に触れる右手を見て気付く。

「若利」
「なんだ」
「飯食いに行く前に薬局寄るから」
「………」

咄嗟に隠そうとする左手を逃がすわけがなく、手首を掴んで引き寄せると、僅かではあるがやっぱり腫れている。熱を持ってるのでは、と指に触れようとしたところ僅かにびくりとしたので慌てて引っ込めた。

「悪い。痛いよな」
「いや……」

無意識だったのか本人も少しバツが悪そうに声を濁らす。どうせ明日も練習があるのに何故この状態で来たのか。走るときだって響いただろうに。

「俺なんかどんだけ待たせたっていいんだから自分のコンディションはしっかり管理しろっていつも言ってるだろ」
「………」
「返事」
「わかった」

バレないと思っていたのか、シュンとして覇気のない姿はバレー中の"ウシワカ"からは想像もつかないだろう。胸に湧き上がる優越感を押しとどめてスマートフォンで近くの薬局を検索する。

「俺テーピングなんか自信ないけど、若利自分でできるよな?」
「……。利き手だから難しい」
「まじかよ〜じゃあどこか座ってからやるからそれまで少し我慢な」

「ん?」
「今日の飯代は俺が出したい」
「えぇ、俺そういうのやだって──」
「お礼がしたい。この服と、手当ての」
「……」

怪我した手に刺激がいかないよう左側を歩く俺の横で、若利はジッと俺の方を向いている。
対向から歩いてくる人にぶつからないよう気を付けながらスマートフォンの予約ページを開いて見せた。

「今日はもう、ここの焼肉屋予約しちゃってるんだけど」
「いいな。俺も肉が食いたいと思っていた」

安くないよ、という意味で見せたのに、若利は妙に嬉しそうな顔で頷き歩くペースを早めていた。話噛み合ってねぇし、まず薬局に寄らなきゃだって!
 
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