でも体裁は保つから

「なぁ若利さえ良ければさァ、試しに付き合ってみねぇ?」

男同士の会話、その場のノリ、冗談、馬鹿な会話。いくらでも逃げ道はあるし否定しても壊れない空気を作った。
試験前は部活がないから、その放課後は俺が若利と話せる貴重な時間だ。皆試験勉強があるからと早々に帰った教室には幸い俺と若利二人しかいない。告白してから、どうせなら金曜日に言うんだったと後悔したが、俺もそれなりに緊張していたのだ。なんせ答えはNOか死かだから。

「………あぁ」
「なァんて、分かってるよじょうだ………『あぁ』?」
「あぁ。『試しに付き合う』んだろう」
「いいのか?というか付き合うって意味わかってる?」
「お前から何度も聞かされている」
「まぁね……、付き合ってはフラれを繰り返してるからな……」

今まで付き合っては別れを告げてきた女の子たちの顔を浮かべては切なくなる。そういえば2ヶ月前に別れた子、俺が貸したCD借りパクしてるな。


「ん?」
「『付き合う』でいいのか」
「あ、うん。よろしくな、若利」

俺の思考を断ち切った若利は夕日の照り返しなど気にもしないで真っ直ぐな瞳を俺に向けていた。

こんなに男前を、白鳥沢の英雄を、女の子たちが放っておくわけがなかった。中学からの友人として誇らしく思っていた。でもいつの間にか、そんな若利が誰かのものになると考えたらものすごく嫌で、なら取られる前に取ってやろう。そう思って、告白した。こんな性格の悪い理由で告白され付き合わされていることを若利は知らない。真面目な若利はきっと、馬鹿を言うなと茶化して流す術を知らないから、『試しに付き合う』と言ってくれたんだ。


そして今
高校3年になってクラスが離れても、どちらからも別れは切り出していないんだしまだ付き合ってるんだよな?

「若利〜」

「5限眠かったァ。6限目は耐えられん」
「寝ても俺は起こせないぞ」
「んむぅ……」

座っている若利の肩に額を乗せて唸る俺を甘やかしはしないが邪険にもしない。普段通りの反応だ。俺は俺で誰にでもパーソナルスペースが狭い人間なのでこれだけ引っつこうとも周りに訝しげな目を向けられることはないし、今俺ができる最大の“イチャつき”だ。

〜さっさと教室戻んなよ」
「つーかあんた距離近すぎ」
「確かに1、2年の頃から牛島君にやたら絡むよね」

さすが女子は鋭い。俺としては声を大にして恋人同士なので!と言いたいが若利の事を思うとそうはいかない。

「なんだよ需要あんだろ?」
「ねーわ。牛島単品のが需要あるわ」
「自惚れんな顔だけ男」
「自慢の長身も牛島の前じゃ霞むしなぁ」
「フルボッコじゃん」

茶化してしまえばそれまで。

「牛島もそいつとは距離考えなよぉ」
「チャラさがエグいし、変な影響受けないようにね」
「"チャラい"?こいつがか」
「そうじゃん。知らない?浮気癖がすごいのよ。最近聞かないけど、今だってどこぞの女子と付き合ってんでしょ」
「今こいつと付き合っているのは───」
「若利」

焦りも、動揺も、緊張も見せない。目は口ほどに物を言うのだから伝わるだろう。言ってはいけない、と。

「……何?今回の相手はガチな感じ?」
「死ぬほど興味ないが」
「でも牛島君が知ってるってのは意外〜」
「お前らホント俺に辛辣ね!意地悪ばっか言うから教室帰る!またな若利」
「……あぁ」

いつもは俺の頭上にある後頭部が手の届くところにあるので、これ幸いと撫で回してクラスに戻る。ウシワカチャージをしたおかげでめっちゃ元気でた。久々に発言とかしちゃおうかな。

そういや教室出るとき若利と目が合わなかったな。まぁ今までがたまたまそうだったのかもしれないし、気にし過ぎだろう。


   ***

クラスが離れてしまった事は嘆いても仕方ないので愚痴を言ったことはない。若利も『今年は別だな』と一言言っただけだ。むしろ俺のクラスまで見てくれてたのかぁと嬉しくなった。
さて、クラスが離れた以上会える可能性があるのは体育の授業と食堂くらいだ。俺が昼の時間を楽しみにしている理由の半分以上が若利に会えるかもだから、なんて周りには絶対言えないが。

ー!席なら取ったぞー!」
「おぉサンキュー」
「何か探してんのか?」
「んー?」

あいつは背が高いからすぐに見つかる。俺だって180はあんのに若利相手には少し見上げなければならない。遺憾だ。しかしこういう時はありがたい。ほら今まさに、入口の人波に逆らわずゆっくり入ってくる若利を見つけた。

「あ、若と──」

声が尻すぼみになったのは、若利の周りにバレー部の姿があったからだ。
食堂はクラス関係ない。そして学年も関係ない。偶然なのかそう決めていたのか一人また一人とバレー部が集まっていく。こうなると蚊帳の外の俺は話しかけられるわけもなく、本人に気付かれないようにそっと友人らの輪に戻るのだ。

「あー牛島探してたのか」
「そー」
「お前ウシワカ大好きだもんなーアタシ嫉妬しちゃうっ」
「安心しろよ、お前のがずっと好きだぜ」
「キャー抱いて〜っ」
「馬鹿二人、寸劇やってるなら列抜いていいか」
「嫌です」

そのへんの可愛い女子なら『顔が見られただけで良かった』と思うのかもしれないが、欲深い俺はただバレー部に嫉妬するだけだった。あーハンバーグのいい匂い。

「お、ハンバーグにしたの?」
「おぉ。プルコギも食べたかったんだけどさぁ」
「仕方ない!俺の一口やるからお前のもくれ」
「えぇハンバーグあげたくないから別にいいよあーーん」
「食ったなら寄越せよ」

旨い。ハンバーグは二口分くらい持っていかれたがそれもまぁいいと思えるくらいには旨い。プルコギにすれば良かったなーが顔に出ていたのか、もう一口やると差し出された。うん、旨い。

空席がないのか、食堂の後ろの方が急に騒がしくなったので飯を食って早々に撤退することにした。
あー午後の授業寝ないように頑張ろう。

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