芽生える小さな黒い種
何を言い出すんだ。知らないも何も、仙蔵も長次も、私に依頼をしてきたのだから、知らないなんてことはないはずじゃないか。

「仙蔵が殺す筈だった仲間は長次だけじゃないぞ。それに長次も、病は体を蝕み確実に衰弱していた。遅かれ早かれ敵の忍に殺されていただろ」
「そんな…の、知らない……」

何で小平太がそれを知っているのかとか、何故彼らはそれを教えてくれなかったのかとか、そもそも何故私はこんなことを頼まれてしまったのか、とか、色々言いたいことはあるのに、口は餌を求める鯉のように音をたてず無機質な動きを続けるだけ。

「私の城とは敵対していてな、仙蔵と殺し合いに向かうところだったんだ。まさかあいつが一番にに殺しを依頼をするとは意外だったがな!」
「知ってたの?仙蔵や長次のことも小平太は知ってた。まだあいつらと繋がりがあるなら私も───」


「お前は私たちの中には入れない」

この時、世界から音が消えた。小平太の口は動いていても、その言葉は分からない。いや、聞こえては来ない。

私たちの中には入れない

これは毒だ。猛毒だ。
耳から入り聴力を奪い、体をめぐって目を霞ませ鼻を刺激した。
さらに毒は手まで回り武器を握る力を弱め、足はぐにゃりと曲がってしまいそうだ。

私たちの中には入れない

無意識のうちに埋められていた地雷を、小平太は寸分違わず拾い上げ目の前に突き付けてきた。私は爆破を恐れるように目を揺らし、音をたてぬよう唾液を飲み込むのだ。

「どうして、六年間一緒にいたのに」
「“集い”にだって誘ってくれた」
「私が半忍半農の道を選んだから?それとも……」

くノ一だから?
聞く前に爪を立てた私の手が伸びていた。
小平太は口角を上げた。待ってましたと言わんばかりに苦無を振り回し私はそれを叩き落とす。奴がこちらに手を伸ばすと同時に私が思いきり蹴りをいれたせいか、二人の体が地から離れる。ずっと、ずっと。

「なはは!このままでは二人とも転落死だぞ!」
「……それもいいな 」
「本当にそう思ってるのか!最初に約束したのは伊作だろう!」
「……」
「お前が私を蹴落とせば、羽衣の術で生き残れるぞ!」

耳を切るような風の音が怖い。冷静な判断力なんて吹き飛んで今あるのは騒々しさと禍々しさ。私は、私は。

「……小平太と戦えたこと、良かったと思ってる」
「私も楽しかったぞ!」

笑える気分ではなかった。なのに小平太ときたら今の状況をまるで理解していないように楽しんでいるのだからついつられて口角もあがってしまう。

「さようなら、小平太」
「またな!!」

少しも抗おうとはしなかった。



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