「えれーお世話になりました」
「先行くぞ」
「待て待て待て」
服の袖を鷲掴みにされて足は前に進むことなく留まるしかない。睨み付けたって気にも止めず、の嫌うこの学園に別れを告げた。
「今回の件、本当に申し訳なかった…」
「もう気にすんな、って俺の言うことでねーか」
とはいえの口から同じ言葉が出るわけもない。いまだ眉を寄せ悔しげな顔の男に誤魔化すようにはにかんであしらう。
「まぁ…本人だって言ってたように、あいつが目ん玉失ったくらいで忍諦めるようなやつじゃねーよ」
「まぁ……そうだろうな」
この間の“じゃれあい”で綺麗に外れた肩をさすりながら文次郎が会話に混ざり、それに気付いたが口角をあげて戻ってきた。
「よぉ、槍使い」
「……」
警戒したのか半歩前に足を出して構えた姿も彼には愉快でしかないようで、ケタケタと笑って顔の前にぐんと指を伸ばす。
「テメェは長物使うくせに肩の力が弱ェからそれを教えてやろうと思ってしたことだぞォ?」
やめろと制止の声も聞かず馬乗りになってゴリ、と外された時の恐怖はまだ覚えている。背中を伝う冷や汗を悟られないよううるせぇ、と噛みついたが勿論そんなの屁の河童。
もう用は済んだと言いたげに帰路につくにため息をついて、与四郎はもう一度一礼し後をついて行く。
「あ、文次郎」
「何だ」
何かを思い出したのか、与四郎が悔しさと喜びが混じったような、なんとも形容しがたい表情を浮かべ戻ってきた。
「おめー、あいつからアドバイスもらうなんてやるでねーの」
「………は?」
思わず喉から漏れたすっとんきょうな声に、ある男を彷彿させるような笑みをニタリと浮かべ、今度こそ男を追って行った。
***
「与四郎!!」
頭上からの声に不快感を露わにする。睨みつけた先にいたのは壁の上に立つ留三郎と、その横で、四つん這いになる伊作だった。伊作の事だ。己の不運で足を滑らせたのだろう。
「……」
声の主を見つけて満足したのか真っ赤な片目をふいと逸らされ、がなるように名前を呼んだ。
「ッ!」
「………」
「借りは返す。手伝えることがあれば──」
「笑えるぜ。六人がかりで俺に勝てねェのに『手伝う』だァ?」
手で持ち上げた笠の奥、にやりと笑った目は初めて会った時と変わらない。
「少しは俺を楽しませられるようになったら声をかけろよ、食満ァ」
血を纏った炎のような色の目を、ゆらりと揺らした。
こうなることを誰が予想しえただろうか。
「……あれ、あいつ今俺の名前…」
ふと気付いて目線を向けるが、二人の忍はもういない。相模へと帰るべく山の中へ消えた後だった。
目は黒炎に揺れる
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