「隠居しろよ化け狸ッ!」

思わず叫んだ食満を咎めるものはいない。他の二人も口にしないだけで同じ思いでいたところだ。

「アッハー、お前らがボランティアを名乗り出たんだろォ?」
「ボランティアじゃねぇ学園長先生からのご指示だ…!」
「どうでもいいわ。残飯処理に代わりはねぇし」
「てんめ…!」

これが怒車の術ではなく素で行われているのだから腹立たしい。浮き出る血管をなんとかなだめ深呼吸。怒りを抱えて良いことなど一つもないことなど頭では分かっている。
が片目を失った事に対し、忍術学園六年生の六人は少なからず負い目を感じていたし、だからこその後方支援という屈辱的な任務も請け負った。
だというのに等の本人はまるで目玉が一つでも二つでも変わりないと自由に森を飛び回り遊んで───もとい。任務をこなしている。



「もそ。確かにマツバタケ城の者だ」
「うちとの不干渉交渉はやつらの過度の侵攻に対して文句言わせないためか」
「考えてはいるが浅はかだ。こんなの何か企んでいる事が丸分かりだ」
「例え分かっても手出しできねぇから困っているんだろうが」
「分かっとるわそんなこと!」
「何キレてんだよッ!」
「もそ…………」

犬と猿を黙らせて指を指した先には既に何体かの死体か出来上がっている。あぁ本当に、人間離れした男である。

「本当に余計な殺しはしてないんだろうなッ!」

遠くから下衆な笑い声が蝙蝠と共に飛んで来る。矢羽音など使うまでもない。さっさと終わらせて忍術学園に帰ろう。これが三人の共通認識だった。

例え満月だろうと、雲に隠された月に照らせるものは何もない。だからこそ城の厨からあがる不審火は真っ暗な空によく映える。

「はー……終わったらしい」
「片付けた死体の数もタソガレドキからの情報と数が一致するな」
「信じていいのやら」
「……わざわざ学園長に対して嘘をつく利点は今のところないだろう。むしろ私達が片をつければ向こうも助かるのだからそこは信用していいはずだ」
「互いの利が一致したってわけだな」

こうした駆け引きの術はどこで身に付けるものなのだろうか。六年生になっても教わっていないが、もとより、ただ指示に従えばいい一介の忍に駆け引きする術など必要ないということを彼らは知らない振りをしているのだろう。


「……」
「ん?どうした長次」
「足りない」

長次の手には見る人の肝を抜くほどの髪の毛が乗っている。死体を片付けた後も数の確認ができるよう死体の髷を切り取っていたのだが、学園長から聞いていた数と片付けた死体の数はあっているのに、どういうわけか髪だけが一つ足りない。

「おい留三郎、まさか落としたわけじゃねぇだろうな」
「そんなヘマするか!あの死体だけ首がないんだよ……!」

いまだ土の中にも川の中にも隠していない一体の死体には確かに首がない。切り離された部分は何度も刺したのであろう深い刺し傷がいくつも残っていて、他の死体とは明らかに様子が違っていた。

「……に聞かないことには仕方がない」

一先ず胴体は目印になる木の側に埋め、とうに学園へ戻っているであろうを追った。


   ***

「あっはー、遅かったなァ」
「誰のせいだと…ッ……まぁいい。

皆が揃う学園長の部屋で悠々と胡座をかく男に腸が煮えくり返る思いだが、残念ながら怒りに身を任せ掴みかかる時間的余裕はない。

「一体だけ、死体に首がなかったんだ。あれだけ何故他のと殺し方を変えた」
「安心しろよ。首なら俺がきちんと片付けておいた」
「答えになってねぇ」
「答える必要が?」

「答えなさい

思わずヒッと声を漏らしたのは善法寺か。しかしそれも仕方ないと思えるほど、一瞬にして場を占める殺気。先ほどまで、朗らかに湯飲みを傾けていたというのに。

「───……あは。いいなァ、これ。久々に『恐怖』を感じたなァ」

ゆっくり。ゆっくりと目を細めて口角をあげ、殺気に当てられているは雲に隠れた月を仰いだ。場の緊張感は次第に高まっていく。早く、早く吐いてしまえと念じても、当然聞き入れるべき本人には届かない。

「“あいつ"の首はですね、学園長さん。渡せません。俺が集めてるもんだから」

一度もこちらを見ない深紅色の瞳はギラギラと見えないはずの月の光を反射させて開く瞳孔を際立たせた。

「今ここにあるんじゃな?」
「えぇ。六年長屋の床下に置いてあります。早く取りにいかねぇと鼠に食われちまうなァ……」
「なら行ってよい。決して落としてくれるなよ」
「勿論。それじゃ」

ようやくこちらを見たは何か言いたげな留三郎を視界に入れ、うっすらと笑みを浮かべた。

「俺をな、こんな体にしてくれた恩人なんだ。あっさり殺しちゃ悪いだろ?」

片付けご苦労さん、と肩を叩いたその手は、思っていたよりもずっと熱く、まるで、人のようだった。

盃に首
目は黒炎に揺れる

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