「お前…ッお前お前…!テメェが今何したか分かってんのかッ!」
「ありきたりな台詞を吐くな。自分の行動が分からないわけねェだろ」

瞳孔を開いて詰め寄る食満の目は今にも殺さんとするほど鋭く、その手の武器はへ真っ直ぐに向けられている。振りかぶる前に長次と文次郎に両腕を取られなければ、今頃味方同士の殺し合いが始まっていたのは想像に難くない。

「伊作、与四郎は……」
「大丈夫。傷は急所じゃないしまだ息はあるが、これ以上血を失うのは危険だ」



何故こうなったのか。
奇襲部隊は複数箇所から攻めてきたことから既に誤算であったのだが、そこに運悪くの死角から弓矢が飛んできたのも想定外の出来事で

ッ!!」

何よりも想定外だったのは、錫高野与四郎がを庇うように手を伸ばし

「……………アァ」

錫高野の伸ばした手を引っ張って、己の盾としたことが何よりも信じがたいものだった。




「俺はそいつの為に武器を投げた。丸腰だ。それに後方からの攻撃に対応するには時間が足りなかった」

それが答えであるように、正解であるようにツラツラと言葉を並べる姿に怒りを通り越して恐怖すら感じる。

「文句が言いてェのか?先にやることがあんだろ」

吐き捨てた言葉の先、顎で示すのはいまだ血を流したままの錫高野与四郎だ。

「……あぁ、確かにこいつの言う通りだ。僕は急いで連れて帰る」

それに同意しついていくと決めたのは仙蔵と長次で、与四郎を含めた四人が戦場を去った今、残された文次郎、小平太、留三郎は後ろ髪引かれながらも引き続き作戦の遂行に当たるのが筋だ。だというのに


「何でお前らはまだいるんだ」

怒りを含んだその声はあまりにもお門違いだが、文句を言おうにもその顔を見た瞬間に声は喉に張り付いて出てはこない。

「俺たちに課せられた任務は二つ。一つはテメェらと同じもん。もう一つは『六人を死なせないように』だ」
「は……?」
「与四郎が俺を庇ったのは、俺なら一人でもその双方を達成できるからだ」
「何が言いたい」

こうしている間も戦は続いている。低い声でぽつりぽつりと話している時間が惜しい。結論を催促するように唸る食満には珍しく不愉快さを前面に出している。陰に篭る性格ではないが、普段なら人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているところだろう。


「殺しかねないから、去ねって言ってンだ」


地を這う声に込められたのは、純然たる殺気。

「……ッ!!」
「嗚呼、全く。雑魚の御守りはこりごりだ」

その目はもう遠くを見ていて、警戒し武器を構える三人など視界にも入っていない様子で、一番に足を動かしたのは小平太だった。

「行くぞ」
「……任務を放棄するわけにはいかねえだろ」
「違う。本陣まで戻るんだ。こいつが、味方に襲い掛かった時のためにな」

七松小平太をここまで冷静にさせるのはあの日見た鳩“だった”死体のおかげだろう。この男なら、本当に味方も殺しかねない。否、『殺す』という行為に意味すら感じていないのかもしれない。とにかく底知れない恐ろしさに友が巻き込まれるのが何よりも嫌だった。
まだ何か言いたげな留三郎も小平太のいう事が正しいという事も頭では分かっているし、何より二人に腕を引かれては留まる事も敵わなかった。ただ、少しだけ、あの男を一人にしてしまうことに幽かな不安を感じていたのだった。

情も友も不要の物 前>>

   -戻る-