「……」
「……」
「………遅いね」
教師達から、六年生各位に声をかけられ呼び出された学園長の庵。
呼び出された理由なら大方検討がついているが、呼び出した教師陣が姿を見せず半刻が立とうとすれば流石の六年生も些か恐ろしい気持ちにもなる。伊作が沈黙を破ったのもそのためだ。
「くそ、六年にもなって説教されることになるとはな。テメェのせいだぞ仙蔵」
「巫山戯るな。乗っかったのはお前達だろう」
食って掛かる仙蔵もいまだ文次郎の顔のあちこちに残る痛々しいアザを見て冷静さを取り戻す。怒りを向けるべきは文次郎でも留三郎でも、ましてや自分でもない。突然現れ先生方の期待をかっ拐っていっただ。
「……」
存在すらも気にくわないと言いたげな仙蔵を筆頭に、六年生の中でのの立ち位置は明らかに味方ではなく敵よりだが、そのなかで食満留三郎はどこか居心地が悪そうに膝を揺らす。
(あんなの、知らなければ)
後輩の富松作兵衛に向けられた笑みは今まで見てきた相手を煽るようなものではなく、大袈裟に言うのならば慈しみが込められていた。この間の闘争が起きた今では見間違いだったようにも思えるが、それでも食満だけはまだを獣だとは思えなかった。
「……いらっしゃった」
教師陣の気配にいち早く気付いた長次を始め皆が姿勢を正す。
「おやおや、文次郎は無理に来んでもいいと言ったじゃろう」
「いえ。これしきの怪我、問題ありません」
嘘だ。留三郎は伏せた眼の裏で毒づく。ここ数日まともに取っ組み合いもしていないのはお前の怪我が癒えてないからじゃないか。
「今回の作戦は万全の状態で挑んでもらわなければならん」
「はッ」
「この間のじゃれあいがどちらから仕掛けたものなのかは今さら問わぬ。今はとにかく治療に専念しなさい」
あれほど殺気を帯びていた戦いをじゃれあいと片付けられることに眉を潜めた者もいたが、詰まるところその程度の実戦だったのだ、プロ忍にとっては。
「……お言葉ですが」
とてもじゃないが口を開けないこの状況でするりと手を伸ばしたのは中指を薬指と巻き付け固定している善法寺だった。
「今回の任務は甲地点陥落させツキヨタケ城への混乱を生じさせる作戦だと伺いました」
「うむ」
「甲地点の砦は既に完成しており、兵の陣形が組め次第すぐにでも攻められる状況です。万全を期す事の重要性は重々承知の上ですがあまり時間が───」
「話がながーい!」
もう飽きたと言わんばかりに短い足を投げ出して扇を広げる。
「つまり時間がないと言いたいのならその点は安心せい。もう対策済みじゃ」
優秀な忍犬は音もなく主人の元へ行き何かを告げ次の指示を待つ。
「わかった」
その一言から意図を汲んだらしく、床に縫われたように動かない六年を一瞥してから部屋を出た。
「……今のは」
「時間稼ぎなら十分に成し得た。作戦の決行は七日後。それまで潮江、善法寺、食満は金楽寺で療養するように」
抗議の声は発せられなかった。吸った息はそのまま飲んで、長から下された命令とも言える提案に了承の意を示すしかない。それほどまでの威圧感があったから。
切歯咬牙の思いで畳を睨む立花仙蔵に油を注ぐのは、あの男の再来の告げだった。
深紅の盃に墨│>>
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