「あっはー、感謝されど攻撃される筋合いはないんだけどなァ!」
暫くの沈黙の後、呆然と立ち尽くしていた忍たちは一斉にを襲い始めた。
城主の首を刎ねた男だ。このまま生かしておくわけにはいかないのだろう。
「場違いな男を消してやったんだ、感謝してくれてもいいだろう」
耳に痛く響く金属音に気を配りながら、俯せになり咳き込む同輩へ声をかける。
「文次郎、大丈夫か」
「ゲッホ…あの野郎、本気で攻撃しやがって…」
留三郎に肩を借りることへの屈辱はあるがそんなこと言っていられない。とにかく血が舞うこの部屋から少しでも遠ざかるべきだ。
途中襲いかかる忍に鉄双節棍で殴り、文次郎の握る槍で刺し絶命させる。
忍から漏れる掠れた悲鳴と手にベットリと付着する血に顔を歪め、改めての狂気さに身震いした。
今まで見せたこともない程目を輝かせ、握られた刀と共に既に真っ赤になった畳の上を踊っている。
「味方にしても、敵にしても恐ろしい野郎だ」
ぽつりと溢された言葉に反応したのかたまたま視界に入っただけか、思い出したように留三郎を見て声を飛ばす。
「合流地点に走れ」
言葉尻に被さるように手裏剣が投げられそれをかわす。
戦いたいのは山々だが敵味方の区別もつけられないあいつの刀に切られるのはごめんだ。不服ではあるが仲間への報告のためと自分に言い聞かせ天守閣から飛び降りる。
目的地は、森を抜けた小高い丘の上。
***
「ハッ…ハァ…ッ」
疲れているとはいえ、ここまで息があがるものだろうか。
城を離れ山道の途中、遂に文次郎を支える腕にも力が入らなくなり近くにある岩を背もたれに座り込む。
「いってぇ…」
先程に殴られた顔や腹の痛みは勿論、目眩までおぼえ留三郎同様地面に座り込み目眩が治まるのを待った。
「あれ、何で潮江までいんの?」
僅かに殺気を帯びた声の主を睨みあげ、低い声で唸る。
「敵の内部に侵入し城主の場所を探ろうとしていたんだ……」
「本当に袋返しだったんだ」
いやぁごめんごめんと頭をかく様は謝罪のしの字も伺えない。
「ハァ…たっく……っ」
「あっは、二人ともだいぶ苦しそうだなぁ」
頭上からの怒りを煽る声に、顔を向けるのも面倒で黙ったまま片手をあげる。
そんな二人の行動に構うことなく木を蹴り二人の前へ現れた男は懐から丸薬を取り出した。
「飲め」
毒消しだ、と言った。
「俺の側にいた奴みんな毒にやられてるぜ」
「どういうことだ」
荒くなる息を必死に隠すがそれさえも面白いと言いたげに男はにやにやとした顔で事の詳細を話す。
あの場に降り立つ前に体に毒粉を振り撒いておいたため、動くたびに粉が辺りに充満していたらしい。
「そうでなきゃあの数の忍相手にこんな楽な勝ち方できねぇしなァ」
目の前に出された丸薬に手を伸ばしていいのだろうか。いまだにこの男への信頼などありはしないのに。
「さっきも言ったが、俺は『お前の命に代えても、学園の生徒を死なせるな』って言われてるわけ。だからこれ飲んでくれないと困るんだわ」
痺れを切らしたが僅かに眉間にシワを寄せいい放つ。
「これ、何で作られたものなんだ」
「お前と錫高野が呑んでた日、あんだろ?」
成る程。あの晩どこへ行ったのかと思いきや医務室に行ったのか。
人の学園の薬を断りもなく使うやつがあるかと訴えながら丸薬を口へ放り込む。
横にいる文次郎はその行為をひどく懸念しているが、奴の言うことも一理あるとは分かっている。
分かっていても文次郎の矜持がこの男に救いを求めることを許さない。
丸薬へ伸ばそうとする手で必死に土を握り歯を食い縛るが、そんな姿をニタリと見下ろすの様はどこかの忍組頭を彷彿させた。
「この男にこのまま醜態を晒すよりはマシだろう」
という留三郎の言葉に、手はようやく土を離した。
「留三郎ー文次郎ー!」
丸薬は確かに解毒剤だった。荒くなった息が落ち着いた頃、ようやく開けた場所に出て、そこから小平太が大きく手を振っていた。
「遅かったな!」
「色々あってな」
「わぁー!?大丈夫かい文次郎!ボロボロじゃないか!」
「色々、あってな…」
「では後はだけか」
ため息混じりの仙蔵の言葉に留三郎は首をひねる。
「あいつならさっきまで一緒にいたぞ」
そうは言っても姿は見当たらない。
彼と合流するまでの間、ここまでの経緯を話すと伊作は眉を潜めながら文次郎の応急処置を行った。
「いくら疑いを晴らすためとはいえ、これはやりすぎだよ。下手したら骨まで響いてるかもしれない」
「まぁあいつは本気で文次郎が裏切ったと思ってぼこしたんだろうよぉ」
「錫高野の言う通りだぜ」
散々待たせた声の持ち主は先程は持っていなかった布づつみを持ち立っていた。
中身に気付く仙蔵が大きくため息をつき懐から扇を持ち出し正座をしたので、もひざまづき包みを開く。
「へぇ、首実検出来るんだ」
「作法委員として当然だ」
包みから覗く大将首に伊作は顔を反らし小平太は私が討ち取りたかったとぼやく。文次郎、留三郎が悔しげな顔を浮かべる間に仙蔵は小さく本物だ、と呟いた。
「ならこれで“任務”達成だな」
ぐぐ、と伸びをした男の右腕は血で真っ赤に染まっていた。
「…お前、怪我してるじゃないか」
気にかけてやることないのにとは思いながら、日頃の同室への世話焼きが生じたのかつい声をかけた。
と、初めて目があった気がする。
「なんてことねェよ、痛みなんて感じねぇんだから」
僅かに細めたその瞳の色は、夜に燃える城を映したようだった。
目は黒炎に灯る
「───以上が今回の“任務”報告となります。錫高野与四郎とは現地で別れました」
仙蔵の報告に満足げな笑みを浮かべた学園長はわざとらしく唸ってから手に持っていた湯飲みを片す。
「結局、首を討ち取ったのはと言うことじゃな」
「………」
誰も何も言わない。それが肯定になっているとは分かってもそうですとは言いたくないのだ。
「気の知れる仲間だけでなく、他校の生徒との合同任務は新たな発見を得るいい機会じゃ」
「それは……その通りでしたが」
「では、次回は負けないように!」
「……えッ」
「待ってください学園長!」
「寝たふりをしておられる……」
「またあいつと組むんですか!?」
忍たま達による必死の抗議も、学園長の頑固な意思の前ではなんの意味もなさなかった。
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