外を見回る殆どの兵が侵入者討伐のため一ヶ所に集められている。
錫高野達がうまくやっているのだろう。
笑えるくらいに警備の手薄な城内をぐるりと駆けても、城の主らしき人物は見当たらない。

「ふむ。優勢である今どこかへ逃げたとは考えづらいしなァ」

がりがりと頭を掻き考える。
ふと遠くから人の声が聞こえ息を殺し様子を伺うと、いたのは数名の武士と忍だった。

「──ではそのように」
「ハッ」

忍の命令に頭を下げているのは侍の方だった。
もしやと思ったその時、廊下の向こうを知った顔が通過する。敵と同じ忍び装束を着ているが中身は食満と潮江だ。
その周りには数人の忍が取り囲んでいる。阿呆共が捕らえられたかと考えたがしかし様子がおかしい。
食満は顔を殴られており、手は、潮江によって後ろで拘束されている。


ふと思い出す昔の記憶。

忍にとって裏切りとは呼吸ほどに容易い

だから別に驚かなかった。
たとえ六年間共に学んでいようとも、命のため就職のため自分のためなら簡単に裏切れることを知っているから。

「任務に支障がなければ構わんさ」

天井裏に身を潜め彼らの動きを伺う。
話を聞く限り、捕まった食満は潮江に連れられ天守閣へ連れていかれるらしい。

(天守閣?)

おかしな話だ。
普通なら捕縛しているとはいえ、敵を頭のいる天守閣に連れていくことはないだろう。それも血と死の臭いをまとう忍者をとなればよほどの狂人か、あるいは───

「行ってみる価値はあるな」

抜き足差し足忍び足。
学園長から直々に受けた別の任務を思い浮かべながら、気配も殺気もない男は忍らの後をついていく。


   ***

天守閣には先ほど侍に命を下していた忍と、その横に二人。
留三郎を縛る縄を持つ文次郎の後ろに先程から囲んでいた忍が三人。
殺れない数じゃない。
上がる口角、溢れる殺気をどうにか押さえ流れを見守るが、それは突然に急展開となった。

「なんだ、ただのガキじゃないか。殺してしまえ」
「……どこの者か、口を割らなくていいのですか」

忍頭の言葉に、横にいた忍が口を挟む。

「そうだなぁ……では挨拶代わりに片腕落としておくか」

横に立つ忍は何か言いたげではあるが結局口を挟むことなく刀を握り、留三郎の右肩へ振り下ろす。

(あっはー、すごい展開になってきた!)

忍術学園学園長の言葉が脳裏に浮かび、ため息をつきながら男は、ふわりと降り立つ。


「『お前の命に代えても、学園の生徒を死なせるな』…と、前金頂いちゃってるんでね」

振り下ろされた刀は留三郎の装束一枚破いた所で止められ、忍はの蹴りに為す術なく吹っ飛ばされた。
の登場により無傷ですんだ留三郎の姿に文次郎はつい、ひっそりと安堵の息を漏らす。

「待て、先程からこの男の挙動に違和感がある」
「……っ!」

気が緩みすぎた、そう後悔するも時既に遅く、ある忍により今度は文次郎の首に刀を向けられる。

「そういえば、この曲者を捕らえたのはお前だったな」
「さては、袋返しの術」
「何をおっしゃいます」

冷静に言葉を取り繕うが一度かかった疑いはそう簡単に拭えない。

「そうだな折角だ、一つ余興を見せよ」

忍頭から楽しげに提案された言葉に留三郎は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
忍がそう易々と表情を見せるなど言語道断だなと失笑を浮かべるは、ゆったりとした足取りで忍頭へ近付きながら、横に立つ忍が静かに構えるのを横目にニタリと口を開ける。

「でェ?あんたの言う余興とは?」
「お前たちが味方同士でないことを証明するために、この男を殴れるか?」

なんだそれだけかと拍子抜けしながら忍により両腕を捕まれた潮江に向き直り

───ゴッ

力一杯殴り付けた。

「っ、」

鋭く息を吐いたのは潮江と食満どちらだろう。
どちらでもいいか。
裏切り者の顔を、腹を殴り付ける。
一切の容赦もないまま何度も殴り付け、ついにの手は敵の忍により止められた。
殴られ続ける男が血を吐き、ヒューと息を漏らす姿に見かねたのだろうか。
それとも本当にこちらの仲間だったら見殺しにはできないと思ったのか、には男の意図は分からなかった。

「もういいでしょう忍頭、こいつが我々の味方であるのなら無駄に兵力を減らすことはない」
「ほう、忍とはもっと非情なものだと思っていたが、存外人の心も持ち合わせているんだな」

「そうだよ」

沈黙に包まれる忍集団の中でただ一人。
この男はだらしなく開いた口をそのままに、忍頭へと近付いていく。

「だからこそお前のような見当違いな男を一時的とはいえ忍頭として置いてくれるんだろ」
「……!?」
「兵や金の流れを読むセンスはあっても、忍になるセンスはないようだな」

「お前は───」


一体何者だ。

喉は言葉を発するより先に、男の刃が貫いてしまった。

「自分の力量を見誤ったかィ。ライメイ城の城主さん」

ヒュウ、と。
最期の一息が漏れ肉塊となった忍頭ことライメイ城城主は膝からドシャリと崩れ落ちた。



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