スクールバッグを肩にかけてため息をついた。わざとなのだろうか、登校中何者かの視線をずっと感じている。監視しているぞという警告なのろう。元々普通科にいた
が分かるくらいに露骨なのだからつい鼻で笑ってしまった。
「イッテ」
「……チッ」
「ハァァ露骨な嫌がらせじゃん」
今すれ違い様に肩ぶつけて来たやつゼッデェ忘れねぇ。そう誓った数分後にはもうその髪色すら忘れていた。あまりに興味が無かったからだ。
「おい、
」
「………はぁい」
「午後の対人訓練にはお前も参加してもらうぞ」
「いやいや、なんでッスか。俺今まで普通科にいたのに」
「個性無しの対人だ。大怪我はしないだろう。それに」
「?」
「お前も“どこか”で学んでるんじゃないか?」
「…………なんの話でしょう」
何かは掴んでる。が、核心とやらにはまだ辿り着けていないのだ。それもそうか、ヴィラン連合だって馬鹿じゃないし、
だって敵側からのスパイというわけじゃない。
が、ヴィランだと決定づけるような証拠を簡単に掴ませやしない。
だからこそ、ここ数日の嫌がらせは酷かった。
ついには教師まで参戦とは一周回って笑えてくる。
心の中でボロクソ悪態をつきながら、
は青あざの残る体を引きずるようにして下校した。
***
「お邪魔しますよぉ」
「お前、最近堂々とドアから入ってくるよな」
「いやいや、さすがの俺も毎回窓かち割ってたら傷治らないからね。嫌だよ体に傷残るの」
「違ェ!ここに来んなって話だ!」
「えぇ?」
いまだに
の来訪に抵抗を見せるが、手土産は疑いもせず口にするようになっている事を、賢い黒霧は口にしないでいた。
「あぁ、
クンこんにちはぁ」
「ちゃんトガ〜っケーキ買ってきたよ〜」
「やったぁ!ありがとう
クンっ」
「うん───イデデっ」
抱きつかれた腕を硬直させる。不思議そうな顔をする二人に軽い謝罪をして腕を離してもらう。死柄木の「話せ」という目に負けたのか大袈裟な手振りを加え白状した。
「いやぁ、学校でね、対人訓練があったんだけどそれが容赦なくてさぁ。俺年齢が上ってだけでこの間まで普通科だったわけじゃん?もうフルボッコよ」
「青あざ痛そぉだね」
「痛いよ〜アザも切り傷も痛いけど謎のプライドが邪魔して保健室にはいけねぇし。毎日が戦いよ」
「………ムカつくなァ」
今まで黙っていた死柄木がぼそりと呟いた。少し離れたカウンター席に座り手元のグラスを崩壊させる。怒った顔もかわいい、とこぼす
にスピナーはぎょっとした。
「どしたの死柄木弔、不機嫌じゃん」
「別に」
そっけない返事をうけて
は確かに嬉しそうに笑ったのだが、薄暗いバーではそれに気付いた人もいない。黒霧とて死柄木の情動の意味は理解しても
が何を思っているかまでは預かり知らぬところだ。
「ぅはは」
満足げに笑った
は死柄木のため新しく用意された酒を横取りし気持ちよさげに一息で呷った。
***
「はてさて。どうしましょうか」
「捨置けそんなもん」
「お店を閉めたいのですよ」
「………」
「聞いてますか死柄木弔」
「………」
「本当に捨てますよ」
やれやれとため息を一つついて、気持ち良さそうに眠る
に手を伸ばす。ふとカウンターの死柄木の肩がぴくりと動く。
「家の場所など知らないからここから一番近い公園のベンチにでもワープさせようかと思います」
「……お前のワープゲート使ってるとこ誰かに見られたら面倒だ。ここに置いときゃ勝手にいなくなんだろ」
笑ってしまいそうだ。あの死柄木弔がここまで相手に譲歩するとは。警戒する必要のない非力さがそうさせるのか、はたまた別の理由か。
「貴方がそう言うなら」
きっと先生がこの事を話せば『弔が学ぶいい教材だ』と言って笑って受け入れるだろうか。あぁそれとも、『余計な知識をつけてしまう』と、排除されてしまうかもしれない。選択肢の後者を思い浮かべて暗鬱な思いが胸にある事にぞっとした。いつの間にか自分もこの男に絆されかけていたというのか。
なかなか広がられない毛布をなんとか広げ、敵の本陣で寝ているとは思えぬほど間抜けな顔で安眠を慾る
にそっとかける。
何かあれば連絡を、と残してワープゲートは店を出た。
「んん、あれ……、暗ぁ」
惰性でスマートフォンをいじる死柄木弔の耳に間延びした声が入ったのは深夜の2時過ぎ。外していた"手"を顔につけ大欠伸をする
の方へ椅子ごと体を向ける。
「お前さァ、本当にムカつく野郎だな」
「死柄木弔」
「人の拠点で我が物顔で寝やがって……殺してやりてぇ」
「んはは」
まだ寝ぼけているのか、殺気を纏わせた手を近付けてくる死柄木を
は穏やかな顔で迎え入れる。
「今ここには俺とお前しかいない。消しちまってもまぁ問題はないよなァ」
「なぁ死柄木弔」
「命乞いなら聞かないぜ」
「俺の個性は瞬間移動なんだ」
「へぇ」
「お前しかいないから言ってもいいよな」
「…………」
「有視界内であれば好きなところに移動できるんだ。でも、ただものすごい速さで移動してるだけから、真ん中に透明の壁があったりしたら俺死んじゃうの」
自分の言葉が面白かったのか、くすくす笑ってまたゆっくりと瞼が閉じていく。
首筋に当てた指は結局4本止まりで離れていった。
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