不自然な格好のまま寝ていたためか、体の痛みで早朝に目を覚ました
は、鍵を開けたまま部屋を空にする事に多少の罪悪感を感じながらも『まぁヴィランのアジトがどうなろうと構わんか』と出ていった。
学校に行くには早いが、家に帰るのも億劫だと川辺りをのろのろとした足取りで歩いていく。前を寄り添って歩く男女が自分の母親と見知らぬ男でなければこんなにゆっくりと歩かなくて良かったのだが、この日は運が悪かった。
「好きになったら全力投球ってとこ、母親譲りなんだよなァ……あ゙?"好き"?」
自分の言葉に違和感を覚えたところで、前を歩く二人は古びたテナントに入っていった。物分りのいい息子はそのテナントになんの店が入っているのか見ることなくまっすぐ進む。干からびかけのミミズを踏んでしまい、トドメにカバンそのものを死柄木達のアジトに置いてきたらしい。自分でも信じられない。今日はなんてアンラッキーな日だと天を睨んだ。
「不幸中の幸いは前の学生証がパスケースに入っていた、ということだな。まだ有効でありますよう、に」
学校をサボれば疑いが増して面倒なだけ。ローファーの裏にミミズの死骸をくっつけたまま雄英の敷地をまたぐ。先程一日分の不幸を出し切ったと思ったがそんなことはなかったらしく、いつにも増して厳しい視線がクラス中から向けられた。視線だけじゃない、拳も。
「いったいな、なんだよ」
「やっぱりお前、ヴィラン連合と組んでたなッ!」
「は?」
赤い髪の男はひどく悔しそうな顔で
を殴ったが、何故そんな被害者ヅラしていられるのか
には分からない。暴力を振るったのだから確実に赤髪は加害者であるのに。
「ヴィラン連合と組んでるって、そんな証拠あるわけ?」
「ア゙!?」
赤髪こと切島は
の言葉にひどく声をあらげた。
「しらばっくれんなよ!お前!あいつらがここに侵入できるよう学生証を渡しただろ!」
「はぁ?」
言葉を遮るように外からあがる爆音。何故か半ば雲に覆われた空にのぼる土煙を見た途端、心臓が締め付けられたような気がして窓際へ走った。
「死柄木弔……!」
窓からなんとか見える街の一角、そこに見える高鳴りの正体を、ふさわしくない現状への異物を、まさか目にするとは思わずつい声を上げてしまった。あぁバレた。あんなに喜色を浮かべた声を上げてバレないわけがない。
「……イ゙ッ」
駆け出した足は何者かに引っ掛けられ盛大に転んだ。隠しもせず出された上履きから視線をあげて足の持ち主を睨む。
「出すわけねェだろ」
「おいおい……ヒーロー科のくせにさっきからやってることただのイジメなんだけど」
「るせぇクソヴィランが」
いつか泣かそう。
人の顔を覚えない
もさすがに爆豪の顔は覚えた。地面に手をついたままこちらを見下す緋眼を睨みつける。教室がピリリとした空気に包まれるなかで、緑色の髪の少年は一際声を張って仲裁に入ろうとした。
「
、さん、相澤先生が全員教室にいろって言ってたんです。だから──」
「!?」
ここまで聞こえる爆音は、考えるまでもなくオールマイトの仕業だろう。教室の開いている窓から救急車の音が僅かに聞こえる。
「あそこが、本拠地じゃないにしてもだ。死柄木が危ない……」
ぽつりとこぼした言葉を聞いた青山が
の肩に手を伸ばした時
その姿は一瞬で消えた。
***
「お゙い黒霧、なんでヒーローがここにいんだよおかしいだろッ」
「可能性があるとすれば、一点」
「………チッ」
仮設地とはいえ強襲への苛立ちは大きく、飛んでくる瓦礫を粉々に砕きながら、空いた手はガリガリと首をかいた。
「やっぱり殺しとくんだった。あいつ、わざとカバン置いて行きやがったのか」
店の片隅に残されたスクールバッグを睨みつけるが、当然何も起きない。カバンには前にトガがあげた盗聴器付きのキーホルダーがついたままだった。
だから油断したというわけではないはずだったが。
「死柄木弔、ここは一旦引くべきかと」
「ならお前がどうにかしろッ」
「えぇ、その隙きさえ頂けれ、ば!」
追撃に継ぐ追撃に二人は防戦一方だった。先程までいたはずの義爛はいつの間にか姿を消している。商売柄姿を消すのがうまいらしいが、ここにいたのが戦闘員であれば状況も変わっていたかと思うとやはり腹立たしい。
「緊急事態だ、能無を出せ」
「しかし、」
「何でもいいから早くしろ!」
先生からの許可もないが逃げるためには致し方ないと、事前に持たされていた能無を2体呼び出し、1体が街を襲っている間に飛べる方の個体に死柄木を連れ出すよう指示を出した。
このまま眠り香の射程外へ、そう思った矢先に銃声が響く。痛みからかただの反射か、能無が咆哮しながら不規則に羽を動かし始めた。能無が撃たれバランスを崩したことで、今度は死柄木が射程内へと入った。
「くっそ、汚えぞヒーローのくせに……ッ」
空中では逃げ場もない。2発目の銃弾は見事能無の腕を貫通しぬいぐるみのようにじわじわと、その腕が体から千切れていく。
3弾目は確実に、死柄木自身を狙っていた。
───パァンッ
「イッデェ…ッこれ傷残んない?俺体に傷跡残るの嫌なんだけど」
「
、
……?」
「ヘェ!?やっと名前呼んでくれたじゃん!」
死柄木の脇腹を狙った銃弾は個性を使い飛び込んできた
の乱入により的を外し、その肩を撃ち抜いた。
の肩から溢れる血は重力に逆らうように宙を舞う。自分たちも空から落下しているというのに何故こうも笑っているのか、皆目検討もつかない。いや、これではまるで、本当に
「名前を呼ばれたことがそんなに嬉しいかよ」
「そりゃ勿論!」
嗚呼。こいつは本当に、救いのない馬鹿なのだ。
「黒霧、俺“達”をワープさせろ」
「よろしいのですね」
「仕方ねェだろッ、ここに残してベラベラ吐かれても面倒だ」
「俺、弔の不利になることはしないぜ!」
「うるせぇ黙ってろ!」
「んははッ!」
抱き合う形になったままの二人は黒霧の個性発動範囲内まで落下したところでようやく地面に足をつける。ふらつく
を死柄木が支える形になっていることを本人達は自覚していないらしい。黒霧がその事実に驚いている間に、ビルの下にいるヒーローが
の名前を叫んだ。
「何を今更。もうずっと俺のことヴィランとして見てたくせに」
「おい、さっさと行くぞ」
「うん。これからよろしくな、死柄木弔」
「ひっつくなうぜぇ」
ふり払われた
が後ろにたたらを踏んだ間に、黒霧と死柄木はワープをくぐっていく。
「俺にとっちゃもう、どっちが悪か見分けがつかなくてさ」
苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見上げる相澤や、既にスコープを覗くスナイプ、怒りとも失望とも取れる顔をするミッドナイト、他にもヒーローが来ていたが、
にはそれが誰か分からない。
ワープをくぐる前に残した最後の言葉は、まぁ誰に向けたものではなかったが、少なくとも
が自分で死柄木弔を、ヴィラン連合を選んだのだと知らしめるための言葉だった。
いつの間にか雲は晴れ、皮肉なまでの青空が広がっていた。
<<
Back