3.ゴールド

職員室に行動記録表を提出した学校からの帰り道。ふと最寄り駅を降りた辺りから名前を呼ばれているような気がして路地へ入り込んだ。

「おまえだれ?」
「おいおい。そっちから声をかけてきて吐く台詞かよ」
「いや、さっきからつけてたでしょ。ストーカー?それとも雄英の監視?」

建物が陰になってよく見えないからとぐいぐい距離を詰めるに男───荼毘は小さく喉を鳴らした。

「おいおい。こんな路地裏で待ち構える男が怪しいとか思わねぇのかよ」
「知らん。それに本気で俺を襲うなら2本前通りで殺ってるだろ。ここは監視カメラがあるぞ」
「へぇ……」

品定めしてやろうと声をかけた荼毘は構えた右手を解いた。少しでも気分を害するような事があれば適当な理由をつけて燃やしてやろうと思っていたし、そうした時の死柄木の反応が見たかったのだが、止めた。生かしていても多少は楽しめそうだと思ったのだ。

「それでお前何?雄英の監視……にしては柄悪すぎだよな。あ、でもあのアイザワとかいう先生もこんな感じか」

一人でうんうん唸るをぼんやりと眺めていると、荼毘の後方で“ゲート”が開く。徐々に大きくなる姦しい声にうんざりしながらもに接触した事に対する言い訳を考えていた。

「おやァ、この人が君ですよねぇ?どーして荼毘君がいるんですかァ?」
「たまたま居合わせただけだよ」
「嘘付けめっちゃ俺のこと尾行してたじゃん」
「……チッ」

牽制するよう睨みつけるが、当人は両手を上へ上げながらベェと舌を出す。臆するどころか現れた黒い霧に安堵すらしているようだ。

「死柄木の友達なら早く言ってくれれば良かったのに」
「えへへ〜」
「トモダチな訳ねぇだろ気色悪ィ」

対象的な態度に成る程一枚岩ではないらしいと悟る。にとっては都合がいい。皆が死柄木を慕っていてはただライバルが増えるだけだ。

「それで、君達は何しにここへ?もしかして迎えに来てくれたの?」
「えぇ!面白い!面白いですねェ!私達が殺しちゃうとか考えないんですか?」
「そのやり取りもうやった」

そう言いながら火傷でボロボロの指がビルの隅に設置された防犯カメラを指差す。ヴィラン側は死角にいるため写り込まないが、はきちんとカメラに映るよういい位置取りをしていた。

「へえ。意外と賢い子ですね」
「子、って。君とそう年齢変わらないと思うけど」
「まぁまぁまぁ!」

そう言うとトガはが瞬きする一瞬のうちに姿形を変え、突如現れた黒髪の女性が青白い手を差し出して目の前に立つ。

「さ、行きましょ」
「うわぁ。ものすごい個性だね」

防犯カメラに映るのはと黒髪女性だけ。そのまま手を惹かれ、カメラに映らない路地へと消えた。


   ***

「会いたかったぜ死柄木弔ァ!」
「うるせぇ近寄んな死ね」
「う〜ん熱烈!かわいい!」

に伸ばされた死柄木の手をするりとかわし距離を詰める。
“手”が無ければ額がくっつているのではと思うほど顔を近づけて挨拶をするの豪胆さには感心、というかそれをされても本気で殺しには行かない死柄木の方に関心が向くと荼毘は心うちでほくそ笑んだ。

「こいつが要注意人物の……おい、名前」
「えぇ?この間自己紹介したのにもう忘れたのかよ!」
「うるせェ早く言え」
「はいはい。ですよろしくゥ」
「あの雄英の内通者だと確信したらすぐ殺せ」
「本人がいる前で言う?それ」
「お前への脅しだ」

優しいこって。そう言って笑ったのを最後に会話は終わり、各々が好きに動く。部屋を出る者もいればテレビで自分達の報道を見る者もいる。カウンター席に座り飲み物を頼むトガに倣ってもカウンター席に座りジンジャーエールを頼む。それを待っていたかのようにトガヒミコがニコニコしながらに声をかける。

「ねぇねぇクンっ」
「ん?」
クンはスパイなの?」
「違うよ。俺は死柄木を眺めていたいだけ」
「?じゃあクンはヴィラン連合に入るの?」
「入らない。俺、別にヴィランになりたいわけじゃないし。死柄木の見た目諸々がかわいいってだけで好きじゃねぇし」
「えぇ〜?」

トガヒミコは納得してない様子で首をもたげた。いまいちの立ち位置が分かっていないようだ。ヴィラン連合の仲間でもないが、そのくせ死柄木と友人になりたいという。雄英校の生徒と親密になればこちらとしては都合がいいがどこまで協力してくれるのか。サイダーを飲みながら率直な疑問をぶつけると、は口元に笑みを浮かべて答えた。

「俺、公私混同しないタイプだからさ、雄英高生の俺はダメでも、普通のプライベートな俺となら友達になっても問題ないよね?俺もヴィランとして仕事中のお前には関わらないから」

その辺の線引きは曖昧にはしないよと言う。
ずっとグラスを拭いていた黒霧がその手を止めて二人に向き合った。

「分かってると思いますが、この事は誰にも言ってはいけませんよ。誰かに知られれば貴方もただではすまないでしょうから」
「黒霧さんって、優しいよね」
「は?」
「勿論、俺がペラペラ喋ったらここの人たちに迷惑がかかるから言ったんだろうけど、それなら『喋ったら殺す』くらいの脅し口調でいいのに、俺の身を案じるような言い方しちゃってさ」
「……」

「俺だって友達裏切るようなことはしたくないからさ、安心してよ」

半分ほど減ったジンジャーエールのグラスが、中の氷をカランと鳴らした。




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