2.シルバー

「よっ!また来たぞ!」
「テメェ……!今日こそ殺すッ!」
「ふっふふ、そんなぶちギレた顔もド好みだぜ死柄木弔」
「近寄らせませんよ」
「もう遅ーいっ」

ぶわり。目の前にいたはずの青年は二人から見て右後方、カウンターに乗り上げる形で現れ──

「あら!?」

先程まで黒霧がグラスを拭いていた布巾に足を滑らせ鈍い音を立て落下した。思わず「ご無事ですか」と声をかけてしまったのはゴンッと音を立てた後何の音も発しないからだ。前回はあんなに騒がしかった男が。

「…………しぃ」
「は?」
「恥ずかしい……!あんな余裕ぶっこいて滑りこけるとか!恥でしかないじゃん!」

カウンターの中で背中を丸めたは打ち付けた後頭部ではなく顔を押さえ恥ずかしい恥ずかしいと鳴いた。

「…………結局テメェは何が目当てなんだ。せめて殺される前に吐いて俺の機嫌をとってみろよ」
「だァから、俺の好みドストライクの死柄木とお近付きになりたいだけだって!」

流石の青年も首に押し付けられた三本の指には焦りを感じたらしく慌てて胸ポケットから何かを取り出す仕草を取る。四本目の指が添えられた。

「ひぇ……本家の殺気すげぇ~~じゃなくてほら!本物の学生証!雄英!ヒーロー科のな!」

そこには確かに前回喚いていた通り、生年月日とは合わない一年生表記と、A組の文字。裏面には『普通科からの転入』と事務員による手書きの文字が添えられていた。しかしそれよりも気になったのは

「……っふ、そのツラ」

学生証に貼られた写真は眉間にシワを寄せ目は上にひん向いたまま口をすぼめる、所謂変顔状態だ。
ヒーロー科転入のため作り直した学生証へのわずかな、そして無意味な抵抗の現れである。

「笑っ、た」

顔を覆う“手”のせいでよくは見えないが、確かに鼻で笑う声がした。に指摘された途端また元の殺気を纏った雰囲気を醸し出すが、残念ながら今更もう通用しない。

「えぇ待って待って!もっかい今の見せて!絶対ちょっと笑ってたよな!」
「っ!」

一気に近付いてきて、相手の息遣いが聞こえるくらいに距離を詰める。興奮したの手が死柄木の指に触れていたからつい指をどけた。けれど自身の行動の違和感には気付かなかった。

「……でェ?近付きたいっていう魂胆は?」
「だから言ってんじゃん。近くでお前の顔が見たい」
「胡散臭ぇ」
「いやマジだよ」
「この間言ってたろ『お前のせいでヒーロー科に』とか」
「へぇ!覚えてくれてたんだ」
「………」

へへへと笑うは心底嬉しそうに見える。だからこそ死柄木にはこの男の魂胆がわからなかった。

「これも散々言ったことだけど、お前の見た目は超好み。だから『お前のせいで』ってのはこじつけでなんとか近くにいてやろうと思ってさ」

今の話のどこに照れる要素があったのか、頬をほんのり赤くして無防備にもその場で胡座をかいた。
つまり殺そうと思えば、いとも容易く殺れるのだ。

「……一応、名前は聞いといてやる」
「は、はは!って呼んでくれ!」
「ウルセェ」

そう、簡単に殺せる。だからこそ利用してやろうと考えただけだ。このまま絆してしまえば雄英を内側から崩せると思ったから。スパイだと言うなら騙されるふりをして隙をついてやろうと思ったからだ。

あとで聞いてくるであろう黒霧への返答を考えながら抱きつこうとしてくるを必死に蹴り離していた。




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