「見つけたぞ死柄木ァッ!」
「!?」
「死柄木弔、下がってください」
アメリカのアクション映画さながら、窓をかち割り拠点であるバーへ侵入してきたのはまだ高校生の子供だった。見た目で人を判断するのはこのヒーロー社会においてよほど愚かな行為であるが、それでも敵の本拠地に単身で、しかも堂々と表からやってきた男子高校生にいくらかの警戒を緩めてしまうのは致し方ない事だろう。
「死柄木弔……」
「失礼、ここに何のようですか?貴方は何者で───」
しかし、やはり警戒するべきだったのだ。この隠れ家を知られているという事だけでどれ程危険な人物であるかという意識が欠けていた。
「近くで見ると余計かァわいい……」
「ッ!?」
「……はぁ!?!?」
一瞬で冷静さを失ったのは、青年が『一瞬で』死柄木の前に現れたから。そして訳の分からない言葉を口走ったからだ。
「わー、この首ひどいね。うちの母さんの冬の手より荒れまくってんじゃん。痛そう、でもそこもかわいー俺が手ずから綺麗にしたげたい」
「……ッ!」
考えるより先に動いた五指は空振りに終わる。状況が飲み込めないまま背後の声に振り替えると、先ほどの青年が少し怒った顔で死柄木を指差しこう言った。
「そうだった、俺はお前にどうしても文句を言いたくてここに来た!」
と。
「お前がUSJ襲撃に来たときの映像を学校で見た……まさか……まさか近くにヒーロー科がいると思わねぇじゃんよりによって当事者の1年A組がいるなんて誰が思うんだよ思わねぇよだからつい口から溢れたんだお前を見たときびびっときた『かわいい』ってそしたらもうすげぇ奇異の目で見られるし怪しい思考を持ち合わせてるかもとか訳の分からん言いがかりつけられて監視目的でヒーロー科飛ばされるとか!勿論3年のクラスにぶちこめば死ぬもんねだから一年の!クラスだよ!2年分降格とかあり得なくね!?俺はただ死柄木弔がすげぇタイプの見た目してて一目惚れしただけだぞ!?思想に惹かれたわけじゃねぇつーの!とりあえず雄英卒業って肩書き持つべく普通科入って適当に就職しようと思ってた俺の人生設計がテメェのせいで狂いだしたんだ責任とれ!!!!」
「オイ黒霧……!」
「落ち着いて」
「は~~改めて間近で見たら超タイプ。顔も声も髪色も髪質も体格も超好み写真集欲しいわ大嫌いだけど」
「……く、黒霧ィ!」
「対処できないことを前にしたらすぐ私の名前を呼ぶ癖、直してください」
動揺しているのは黒霧も同じだ。当然雄英の制服を着た男がヒーローよろしく窓をかち割りダイブしてくれば正気か疑う。殺されに来た……わけではなさそうだ。
「18歳にしてヒーロー科一年に転属。それも監視目的なんて最悪待遇を免れるためには『俺は正常である』ことを証明しなければならない。でも俺欲望には忠実だからさ、我慢できないし、ならいっそ清々しく欲を発散させれば学校ではノーマンタイってわけよ」
「待てよ。なァ、何で俺がお前を逃がす前提でいるんだ?あぁスゲー不愉快だ……今すぐ死ね」
「そういう感情に支配されてるとこもかわいいネェ」
耳元で聞こえる声に生暖かく動かない体。抱きつかれているのだと気付いても自身の細い腕ではどうすることもできずキャンキャン喚いた。
「わぁ、腕も細い。なんか、大丈夫か?飯はちゃんと食わせてもらってる?……あと、お前こいつに閉じ込められてるとかじゃないよな?」
さっきまでの騒がしい声とは一変し、耳元で自分だけに聞こえるよう紡がれた小声にまたも背筋に震えが走る。
「……ッさっさと離れろよッ!」
「違うならいいんだけど」
「違うに決まってんだろ余計なお世話だッ!」
「さて。そろそろ行かねぇと。帰宅にどれだけ時間かけてんだってどやされる」
そう言って窓の外を見たと思えば瞬時に向かいのビルの屋上に移って、また来るからと手を降った。最後まで身勝手極まりない。
追いかけようとした黒霧も、その場にガタンと崩れ落ちた死柄木を放っておけず、その場から離れられなかった。
まさか刺されたのか、と背筋が冷えたが突然の接触に腰を抜かしたらしい。
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