"蟻"は振動を感じ取り"蜘蛛"は温度を検知する。山奥に放っていたそれらはおよそ生徒の体重からは計測し得ない振動を"女王蟻"に伝達した後反応がなくなり、"女郎蜘蛛"は生徒がいないはずの場所でわずかに熱信号を拾っていた。数からして迷い込んだ観光客か、少数のヴィランか。どのみちこれから肝試しをしようと盛り上がる面々に伝える前に確認すべきだろうと、イレイザーヘッドーとブラドキングにだけ概要を伝えてはワイヤーを木に飛ばし目的地に急ぐ。

「……!信号が、相澤───!」

が無線を飛ばすより先にマンダレイからのテレパスが入る。複数名のヴィランの侵入を許した。自分は予兆に気付いていたのに。異変を察知していたのに!

「──ふー…………」

思考が呑み込まれている。自覚して深く息を吐き両目を瞑った。再度深呼吸して目を開けると耳はわずかに岩の砕ける音を拾い、反射的にまた左腕の機械を音の方に向けて飛んだ。


   ***

が崖の上についた時にはもう戦闘は終了していた。崖の影にある水圧で削れた崖や激しい衝撃で削れた岩、地面に付着した血液や水を見て状況を考察し未だ気を失っているマスキュラーの上に跨った。

「ん、うぅ………」
「起きた?この気付け薬怖いぐらい効くんだな」
「…お…前……は」
「目的、人数、配置を言え。知らないなら素直に知らないと言え。嘘はつくな」
「知るか…知らねェ……知ってても、言うかよ、バァカ……」

マスキュラーはいまだ朦朧とした意識のなかでもしかしの顔を見て嘲謔的な笑みを浮かべ口角をあげたのは一瞬のことで、すぐに足に走る激痛に声を上げた。

「腹立たしいやつだ。いい大人が力を誇示したくて仕方がないって?」
「ウグゥゥアッ!?殺すぞ、絶対に殺すぞお前ッ」
「口を開くなら目的、人数、配置」

がつけていた腰袋の中からでてきたビス打ち機にも似た機械は細い棒状の武器をマスキュラーの足めがけて突き刺していく。痛みはあるが出血量は少ない。このまま望みの情報を得るまで止めるつもりはないのだろう。
上等だと、マスキュラーはめがけてつばを吐いた。

「………そうか。ならフェイズ2だ。こっちも余裕は無ェし校長から『フル装備で』と許可も得てる」

は眉間に深い皺を作って自分の頭を抱えたが、覚悟を決めたように深く息を吐くと、今度はマスキュラーの側頭部を両手の指で掴み、お互いの鼻が付くかという所まで顔を近づけてその目を覗き込んだ。

『作戦に関し見聞きした事を思い出せ。』
「アガッ!?キサマッ!ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」


マスキュラーの頭を覗いて見えた人物たちには見覚えがあった。それもそうだ、メディアで何度も取り上げられる犯罪者たちだ。何人かは知らない顔もあったが同類だろう。
そんな人間らが爆豪勝己を誘拐するという。その目的を推測しては納得したように頷いた。

「まぁ、分からなくもない。もしそうなったらヴィラン連中の大勝利だ」

再度意識を失ったマスキュラーの両手を拘束してゆっくり立ち上がった。




「……………」

一歩二歩と歩くごとに頭が波打つ。
人目を忍んだ位置にある大人の腰ほどの高さの個性使用跡は、あのヒーローアンチの子供のものだろう。
ここで戦闘していたのが緑谷ならばまず子供の保護を優先するはずだ。左腕の機械から伸びるワイヤーの音すら頭を揺らすが、それは耐えなければならないものだと分かっている。

施設に戻る途中で見慣れた背中を見つけた。ノイズのかかった頭が一瞬だけ鮮明になった気がしたがそれは本当に僅かな時間で、すぐにまた視界が、聴覚が、飲まれていく。

「イレイザァ」

ようやく発した声に彼はなんて言ったか。頭が働かないが自分が何かを言っている。頭の中を無秩序に流れる映像と誰かの声のせいで殆ど機能しない耳がようやく拾ったのはマンダレイのテレパスだった。

「おいおいおい!まるで爆豪だけが狙われてん口調だが、お前だってマークされてんのわがってんだろ緑谷ァ!」

爆豪は誘拐でも緑谷は殺害リストに名前があった。ならここで保護しないと危険なのは緑谷だ。ヒーローぶって同級生を助けに行くなど愚の骨頂。木を殴って怒りをぶつけても到底晴れやしないが、しかしそれをしないわけにはいかなかった。脳内を濁流のように流れる怒りや不快感、破壊衝動は先程マスキュラーの記憶とともに流れてきたものだ。抑えきれない。自分に元々あった感情が増幅させられたのだから、尚更。

「……」
…………
「……アァ゙?」
「生徒…をタ#4\ …む」

意識の遠くに同輩からの願いを聞いた気がした。何を言われたのか言葉を理解するのにこれほど神経を研ぎ澄ませなければならないとは全く難儀なことだ。
だからといって自分はそんなに大声で怒鳴る必要はないだろう。自覚がある。乖離している。
だから早く立ち去らなければならないのに、足は泥になったかのように重かった。

(ここは今どこだったか……目の前にいるあの男は、男が、なにか、俺には……)

必死でその場に立ちながらなんとか向かい合う男の言葉を拾う。言葉は聞きづらくても意味は理解していた。
の存在が許されているのはこの-:4個*性":を正しく使えると誰\?か%d5が強く唱えたからだ?だから、だから、何だっけ¿この個性で生徒=保護がして更に保護、誰を。あァ、『爆豪』嫌いだ。嫌イ。何でだ?何でって、ムカつくから!なぁ!破壊したいよなァ!?あいつは■■■■から!



「………、…………あ」
「任せるぞ」
「ぁぁ、……うん」

たった一言。なんと言ったか覚えてはいないが、今目の前の男が放った一言での脳内を支配していた霧が晴れた。そうだ、自分は守らないといけないものがあった。
少しずつ明瞭になる視界の先には学生の頃から見続けてきた旧友の姿があって、無意識ながらに手を伸ばしたが、相手に触れる前にその手を下ろしたのは自分が 警戒されているとわかったからだ。

「……」

かける言葉が見つからない。は逃げるようにその場を去った。
その後奴らと遭遇するまでの記憶はほとんどない。
混濁した脳
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