マスキュラーの声が脳内に響き、呑み込まれそうになるたびに学友の声を必死に思い出していた。
『、任せるぞ』
その一言にどれ程の力があるのか本人すら分かっていないが、脳内の霧が少しずつ晴れているのは確かだった。
だからこそ見つけたのかもしれない。
両腕を組みツギハギ顔の男に激励やら叱咤やらを飛ばす男は、森の木々を縫って現れたオーバーシャツの男を見て「ゲェッ!?」と悲鳴にも似た声を上げる。
右手に持ったナイフでツギハギ男の首を狙ったが読まれていたらしく何か強い力で弾かれた。それもまたのストレスになる。
「ア゙?なんか見覚えノある奴」
「マッドラヴ!久しいな!そうでもねぇ!」
「知り合いか。まァ、親しい仲じゃなさそうだが」
「お前よか仲良くやってるぜ荼毘!殺し合うけどな!」
木に刺したワイヤーを抜き、収納しきる一瞬のタイミングを狙っての腕に蹴りが飛ぶ。体勢を立て直すまもなく青い火が目の前に広がった。
「今この場にいる人間は全員敵ってことでいいんだよな」
「お互いにな、ツギハギ男」
左足に残る火を叩きながら腰袋にある機械のボタンを弾くと、木々の間を縫って張られた"蜘蛛"の糸が荼毘の左右から勢いよく張られ肌を掠める。糸についた血の量を見るに大した怪我を負わせることは叶わなかったが左足の火傷に対するお返しはできただろう。
「チッ…トゥワイス、お友達に邪魔するなと伝えろ」
「いやいや!俺も驚いてる!分かってたがな!お前こっち側じゃなかったのかよ!」
「否定はしない。が、今の俺は捕まっちまったもんでな。これ以上立場悪くならないよう自分のためにも仕事はするさ」
が余裕の笑みを崩さないのはここが森の中だからだ。合宿が始まる前から侵入者に備え様々なトラップを仕掛けている。あちこちの木々に置かれた"蜘蛛"が二人の動きを封じ、"蟻"は今まさに二人の靴裏を陣取った。あとはどちらかを捕縛しこの作戦の全貌を吐かせられればゲームクリアだろう。
「『殺し合え。』はさすがに無理だし、今の最適解はなんだろうな」
「あ?」
増えたトゥワイスたちを体裁きで躱しつつ忍ばせていたナイフで一体ずつ仕留めていく。最も半数は"蜘蛛"の糸で四肢を千切られ泥へとほどけていくのだが。
「ごちゃごちゃ考え事とはお気楽だな」
「熱っ、火傷はごめんだぜ、肌に残る」
荼毘、と呼ばれた男の手から出る青い炎は確かに厄介だった。森を焼いてくれれば敵の居場所を伝えるいい手段になると思ったが周囲の霧や戦闘のせいで多少の火では意味がないらしい。ならば攻撃の手段を奪えばいいと、後ろ手で組ませようと命じる直前、トゥワイスが一際大きな声で荼毘を呼んだ。
「気を付けろ荼毘!そいつの言葉は俺たちを動けなくするぞ!」
「──、」
過去の自分──悪党からせしめた金であれば後ろめたいことは無いと手を組み強盗をしていた頃の話だがこれについての詳細はまた別の機会とする──はトゥワイスの前では『動くな。』という言葉以外発したことがないのだった。
(危ない危ない)
喉まで出かかった言葉を寸前のところで飲み込んでお望み通り「動くな。」と告げる。
「ぐえっ」
「チッ、防ぎようがない。めんどくせぇ個性だな」
「便利だろ」
二人がピタリと動きを止めたことには大きく息を吸って笑みを浮かべた。余裕の表情を見せてはいるが、その実意思を反する男二人に個性を使ったことによる頭痛がひどい。鈍器で殴られたような痛みと目眩を前につい口を滑らせた。
「2対1は脳への負担がデカいからなァ。片方は殺してもいいか」
「脳……そうだ荼毘!脳無ってやつを呼べ!お前の声にのみ反応するとか言ってたろ!」
「脳無、じゃあお前らの親玉はあの"手"のガキか…ッ」
「──あぁ、お前、脳無とやったことあるんだな」
一瞬見せたの動揺を見逃してもらえるわけもなく。荼毘が逃げ道を見つけたと言いたげに涙堂を持ち上げ言い聞かせるようにはっきりと、声を上げる。
「もうずいぶん前から脳無を放ってる。生徒の一人や二人、今頃血を流して助けを待ってるんだろうなァ」
「……ならそいつらの犠牲を無駄にしない為にもお前らは手土産にしねェとな」
「おいおい非情じゃねえか!さすがだぜ!」
「あの生徒思いのセンセイとは目的が違うってか」
「……」
皮肉めいた荼毘の言葉に忘れていた相澤の存在を思い出してしまう。この時ばかりはマスキュラーの汚濁に飲まれていたほうが良かった。だって、迷いが、生じてしまう。
今見殺しにする生徒の数なんて、この男たちを野放しにすることによる被害規模に比べたら───
『生徒を頼む』
『、任せるぞ』
「くそッ、クソッ!!!二度と判断を誤るな…!俺は、今ここでこいつらを──」
脳無がここに来れば二人にかけた個性は3分と経たず解除されるだろう。そうすれば3対1、どれだけ贔屓目に見ても自分が勝てる見込みはない。ならば今すぐこの場で二人を殺せばいい。その間に生
『』
徒が死んだとしてもお釣りが出るほ
『生徒を』
どの功績だろう……?
「クソッ!」
"蜘蛛"は先ほどから何体もの地に伏せる人体があることを伝えていた。熱反応があるなら死んではいないとここまで無視していたのに、いつも自分の思考を遮るのはある男の言葉だ。
「……次は殺す」
「それはこっちの台詞だ」
「おう!これ解いてけ!そんな事するわけねェか!」
きっと誤った選択だ。抑えきれない怒りをぶつけるように投げつけたナイフも荼毘の髪を切るだけで終わった。にやりと下卑た笑みが脳裏に残る。
二択迫り早々
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