「きもちわりぃ……」
「だらしないわねぇ」
「虎のペースに飲まれたら終わりだよぉ」
「そういうのは早く言ってくれ……ヴォエ」

が起きてきたのはワイルドプッシーキャッツの面々が支度を終えて、もうすぐ来るであろう雄英高校の生徒のために森をいじっている時間。つまりかなりの寝坊である。

「イレイザーからもうすぐ所定のポイントに着くって連絡あったけど、行けるの?」
「無理すぎる……ずっと気持ち悪いもん」
「じゃあはあちきらとB組担当ね〜今のうちにお風呂でも入ってきちゃいなぁ」
「うい……。すんません……」

ずっと顔を両手で覆ったままのろのろとした足取りで浴場に向かうを見送って、ピクシーボブはため息をついた。

「昔から変わらず、ラグドールはあいつに甘すぎんのよ」
「えぇ〜そうかなぁ?なんか庇護欲が湧いちゃって」
「庇護すべきはあいつの周りにいる人間じゃない?」

肩を回して出発の準備をしながら言うマンダレイの言葉に他の二人は頷くが、ラグドールだけはうぅんと首を横に傾けた。

「あんなに弱点だらけで生きづらそうな人、なんか手助けしたくなっちゃうんだよねぇ」


   ***

この日ばかりは死にそうな顔をしているのはだけではなかった。死屍累々、這う這うの体で合宿先にやってきた雄英高校のA組、B組にプロヒーロー達は笑みを浮かべる。
A組に次いで、別ルートから来たB組も無事に宿泊地まで辿り着いた。

「うぇ……やっとついたぁ」
「死ぬかと思った……」
「初日からこれとは、さすが雄英高校、だな」

体操服はボロボロでやつれた顔をする生徒だが、プッシーキャッツ達の後ろに立つの姿に見栄を張る生徒たちも中にはいた。

さんも来てたんスね」
「僕たちの姿を見て、笑う、つもりだったんですかぁ!?残念!この通りピンピンしてますよ…!」
「うるさい、声がでかい。いいから水分とれよ。水分補給は心身を安定させる」

膝をついたままなんとか顔を上げた物間の額によく冷えたペットボトルの底が当てられる。思わず漏れた間抜けな声に鼻を鳴らして他の生徒にも飲み物を渡していく姿にその場にいたB組の面々はぽかんと口を開けた。

「なんだその顔。早く荷物片付けねぇとメシと風呂逃すぞー」

うっすらと笑みを浮かべて歩いていく姿に誰も何も言えなかった。

「嫌味の一つも言ってこない……」
「それどころかなんか、しおらしかったね」

B組の間で飛び交う噂に信憑性が増して思わず顔を見合わせた。もしかしたら本当に、は───

センセイ、早くもクビ、か……」

教師ともあろうものが謹慎処分を受け、ここ数日は警察署に出入りしているとの目撃情報もある。更には相澤先生と言い争う声を骨抜が聞いていた。そこにあの性格が加われば入って数ヶ月で解雇だと言われても納得できる。そんな自業自得な理由による勘違いをされたは二日酔いの頭を抱えながらまだ水を配っていた。



「んあ、しょ……イレイザーヘッド。お疲れさん。はい水」
「あぁ」

渡された水を受け取ってふと視線をその腕に向ける。もう右腕は簡易的なサポーターだけになっていたので怪我の快復は順調なのだろう。

「この間の」
「あ?」
「緑谷の一件、助かった。あの後も何度か警察署に行ったんだろ」

最初は当事者である緑谷が呼び出されていたのだが多忙な学生の身で時間を割くのは難しいと、書類の運送や刑事の送迎を買って出ていた。

「あー別に。俺も得るものがあったんで」

の言う『得るもの』とはの現役時代の行いを知った上で近付いてくる警官とのコネクトを言うのだが、当然相澤には言わないでいた。

「イレイザーの部屋は突き当りの左奥だって。部屋の鍵は右端の引き出しに入ってるから」
「わかった。随分調子悪そうだな」
「べつにぃ……」
「体調が悪いなら『モナチャン』にでも面倒見てもらえ」
「はっ!?なんでお前がモナちゃんのこと知ってんの!?」
「雑用お疲れさん」
「なん、で!?」

動揺するの声を背中に聞いて溜飲が下がる思いだった。酔っ払った自分の行動を悔やんでろ。案内された自室に向かう途中ブラドキングに上機嫌だなと指摘されたが当然理由は伏せておいた。


   ***

『マンダレイ、洸汰君に頼みたいことがあるんですが……』

「──ってイレイザーが言ってたから。まぁお前の事だろうなぁとは思ってたけど」
「ちくしょう……オイラの花園……」

点呼のため男子たちのいる大部屋に向かう途中で相澤の足を止める声が聞こえた。
談話室に何人かが集まっているらしい。声を聞く限りと峰田、上鳴、瀬呂と砂藤だろう。先程覗きをしようとして失敗した峰田をからかっていた。

「まぁ大人としてはね、ふざけんなだよ。覗きは軽犯罪だからな?窃視の罪。合宿で犯罪行為すんなって」
「まぁまぁ。そこは相澤先生が先手を打ってましたから」
「つーか見せて欲しいなら頼めばいいのに。ヒーロー科なんだからいるだろ、学校出ればすぐ一人や二人声かけてくるじゃん」
「はぁ???」
さん……そういう発言はどうかと思います」
「おお、俺も今までで一番ムカついた」
「うそぉ。今の学生ってそんな奥手なのか?A組なんて体育祭で目立ってたし」
「まぁ、声を掛けれはしたけど…」
「何?……あぁあ!確かにな。うん。女子人気はトドロキの総取りか!確かにあの個性とビジュアルじゃあ勝てねぇわなぁ〜ハッハ!!」
「「「「うるせぇ!!!!」」」」

男子生徒達からのヘイトを稼いで満足したらしいは軽い足取りで談話室を出ていった。咄嗟に隠れて正解だった。相澤と鉢合わせて折角の上機嫌を損ねさせる事に利点などないのだから。
楽しんでるあいつ
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