うめき声をあげたが部屋に飛び込んできた時は敵襲かと身構えたが、襲われた相手は洸汰だと知りため息をついた。

「あのガキまじでころ……許さん…!」

マンダレイの視線を感じ言葉を改めたには最後まで洸汰の境遇について話すことはしなかった。プロヒーローの殉職など、には到底理解できないだろうし、二人の行動を否定するような言動は聞きたくなかったから。

「まぁとにかくさ、おかげで夕飯の支度も終わったしあとはゆっくりしなよ。露天風呂もあるんだし」
「まじで!?やったー湯船浸かるの久々!」

今日一番のハイテンションで笑って、玉ねぎくさい手でガッツポーズを作った。これでもかと喜びながら余った食材で今日のつまみも作っておいたよと言い残して立ち去るの後ろ姿を見て、『ヒモとして生計を立てていた』なんてふざけた言葉も嘘ではないような気がしてきた。


   ***

『───以上が今日の報告ね。ラグドールはが最近オーバーフローしたって言ってたけどそうなの?"個性"を使った場面が本人の申告通りだとしたら前より耐久力減ってるみたいだけど』
「恐らく話してない事もありますね。体育祭の時、出店の人相手にも使ってたみたいだし。あとは、そうですね。慣れない環境っていうのもあるんでしょう」

電話の向こうでマンダレイは感嘆の声を洩らした。随分よく見てるなと言われて目を閉じる。

「……監視が俺の仕事の一つですから」
『成程ね。じゃあ今日は羽を休められたんじゃない?』

お互いにさ。どこか笑いをこらえた声のマンダレイに事の訳を聞こうとしたタイミングで、電話の奥から笑い声が聞こえた。

「……さっきから後ろの声が賑やかですね」
『あー、そうね。先に謝っておこうかな』

謝ると言うわりにはやはり声のトーンは愉快げだし、背後の声を聞く限り酒盛りをしているとしか思えなかった。

「もしかしてあなた達飲んでます?」
『あ、分かっちゃったか』
「あー……なら、さっきの『先に謝る』という発言はどういう意味か───」

『もしもーしっこちらですが!』
「!?」

バッと手に持つ受話器を離す速度はあまりも早かった。咄嗟に周囲を見渡したが幸い今職員室には誰もおらず、相澤は呼吸音が受話器に拾われないようゆっくりと深呼吸をしてもう一度耳を当てる。向こう側ではお気楽な声がこちらの様子を窺っていた。

『もしもしー?あれ?マンダレイ〜誰もいないみたいッスよ?』
「…………もしもし」
『お!でたぁ!どちら様ですかー?』

このまま名乗らずに電話を切ってしまいたかった。名乗ろうが名乗るまいが、の落胆した声が思い浮かんで声に詰まる。報告を頼んだだけなのに何故マンダレイはこの男に代わってしまったのか。わざとだろう。

「……俺だ」
『ん、なァに?』

昔から変わらない聞き返し方がひどく懐かしかった。この春から同じ職場にいるというのに、会話をしたのは未だ数えるほどだ。
お互い望んでいないとはいえあまりにも少なすぎるから今ぐらいはと自分に言い聞かせてなんとか名乗ることができた。

『あぁ、消太かぁっ』
「………」

耳を疑うとはこのことだ。受話器の向こうの声は相澤の予想に反し明るいままでケラケラと笑っていた。久しく聞かない裏のない笑い声につい息を潜めてしまう。

『なー俺な、今日すげぇこき使われたんだが。雑用全般こなした上に大量の野菜切って肉炒めてでさぁ。ひどくね?モナちゃんだってここまでさせなかったよ』
「誰だモナって」
『俺の元カノ〜。あ違った、付き合いたくはないって言われたんだ。ただ家事やるなら家にいてもいいって置いてもらってたの。学校で仕事するって言ったらワイシャツのお下がりくれたのもモナちゃん。俺がいつも着てるやつ』
「何を聞かされてるんだ俺は……」
『まぁそんでさァ、明日の夕飯くらいは学生らに作らせるのあれだろって事で俺らが作ったんだけど、それのお疲れ会してんの今!』

根津校長が持たせた手土産が酒だったからだと言うのは言い訳だろうががここまで酔っ払うということは確かに相当の量があったのだろう。明日に残したら承知しないと頭を抱えた。

『なぁ消太?』
「なんだ」
『飯もあるし、デカい露天風呂も気持ちよかったぜ』
「そうか」
『最近お疲れ気味だろ。初日くらいお前も寛いでもいいんじゃない?』
「観光で行くんじゃないんだぞ」

真面目だなぁと笑う声はやはり酔っ払いのそれで、普段よりずっと大きな声だ。遠くでワイルドプッシーキャッツ達の笑い声はするが声が聞き取れないくらいの位置にいるらしい。

『あ、そうだ。俺あれ作ったぜ、前にお前がうまいって言ったあれ!ほうれん草と玉ねぎあえて、サーモンに乗せるやつ』
「覚えてたのか」

まだ学生の頃の話だ。合宿だったかただ個人的だったかも思い出せないが、男子数名で泊まった時に、が作ってみせたものだった。よくもまぁ覚えていたという感慨深さと申し訳無さのような気持ちになって無意識のうちに顔を下げた。

『だってあれ、今まで会った女のコたちに作っても、皆好きって言うんだもん!』
「………」
『消太の味覚、女子〜〜って思って…あ?消太ぁ?』
「寝ろ」

がちゃんと受話器を置くと職員室の無音が尚更耳についた。無駄な時間だった、とは言い切れない女々しさが嫌になる。頭に残るの声をかき消すように頭を振って部屋の隅に置いたままの寝袋に手をかける。

『俺あれ作ったぜ、前にお前がうまいって言ったあれ!』

「馬鹿だな、たまたまだろう」





『面倒くさがりの面倒くせぇ消太のために!じゃーん!』
『うるさい』
『ん?シャケのムニエルか?おしゃれ料理だな!』
『朧の口からムニエルとかでてきてびっくり。しかもこれはムニエルより強い。これと味噌汁があれば1食5大栄養素網羅できる代物です』
『結構手間かかってんのなぁ』
『ん?まぁね。俺達は体が資本だから。食べられる時はきちんとしたの食べないと。どう?消太』
『……あぁ。うまいな』
『はははっだろ!』


『また作ってやるからな!』
昔の夢を見てたよう
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