相澤消太、管赤慈郎、の三人は校長室に呼び出された。林間合宿の最終調整だと言う。進行予定のプログラム表はの手に閉じたまま載せられている。それを開くより先に、根津に対して手を上げた。

「俺なんかよりずっと頭のいい校長先生にこんな事言うのもなんですがァ」
「なんだい?」
「俺が内通者の可能性が一番高いですよねェ。いいんですか?こんなの渡しちゃって」

静かに机に置いたパンフレットはまだ一度も開かれていない。行きたくないというわがままでも放棄でもない、当然の疑念からだ。

「俺が姿を消してから見つかってここに来るまでの間、どこで何してたか。公安は全部追えてるんですか?それに、相手方のヒーローがなんて言うか。この間みたいな事になって反省文書くの嫌ですよ俺」

つらつらと止まらない口を塞いでやりたい気持ちを堪えてプログラム表に力を込める。それを隣で見る管は困り笑いを堪えていた。

「その二つなら問題ないさ。一つ目の問題は、まぁ詳細な根拠を本人に言うわけにいかないけど、君がヴィラン連合との内通者という件についてはほぼ白で間違いないだろう。二つ目の問題も心配ないよっ」

促されるまま開いたプログラム表の文字には僅かに張っていた肩の力を抜いた。彼女たちなら大丈夫そうですね、と言う声も先程より少し明るい。
その後は道路の混雑予測からバスの出発時間を定めたり生徒たちの強化項目の見直しを行った。日も暮れて街灯が薄い輪郭を目立たせる頃に解散となったが、だけはもう少し残るようにと言われたため相澤たち二人だけが部屋を出た。

「知っての通り、今回は最少人数で行く。生徒数に対し監督する教師の数は十分とは言い難いし、何より相澤先生はまだ病み上がりと言ってもいいくらいだ。本人は認めないけどね」
「はぁ」
「万が一敵が現れた場合必ず複数人で来るだろう。生徒を守りながら戦う上で情報収集は何より大切だね」
「……」
「だから今回は、『フル装備』で行ってくれて構わないよ」
「───……いやらしい人だ。どこまで知ってるんです?」

根津はふふんと鼻を鳴らすだけで答えない。先程の白とする根拠といい、根津がへの警戒に余念が無い事は明らかだった。

「あぁそれと」
「まだ何か?」
「林間合宿初日に振る舞う夕飯の支度を手伝ってほしいって言ってたよ!」
「………パシリじゃーん!」



   ***

「お、来たなー!」
「ご無沙汰してますマンダレイ。あー遠かった」
「なんだ、バス使わなかったの?」
「25分待つなら飛んできたほうが早いでしょ。好きなだけワイヤー使えんの最高〜」

両腕に大荷物を抱えたまま伸びをして深く息を吐いた。荷物に加え大きな腰袋が動きに合わせてガチャガチャと音をたてる。腕の機械といい、随分と重たそうだ。

「随分物騒ね〜」
「まぁね。俺は一応皆の護衛係だもんで」

取り敢えず荷物を降ろしたいなぁとあくび混じりの声にガシャガシャと機械音を立てながら建物に入っていく。その後ろ姿は昔面倒見たときから何も変わっていないように見えるのだが、さて。


「うっわ、アンタ変わんないねぇ」
「そういうピクシーボブ達も昔のまんまですよ」
「カー!口が達者になって!」
「来たな愚か者。今回の合宿でお前のことも鍛え直してやる」
「何それ聞いてないッス」

手土産を渡して案内された部屋に荷物を置く。ようやく両手が空いたは再度体を伸ばし、差し出されたペットボトルを数口飲んだところで仕事を割り振れられ思わず軽く咳き込んだ。

「しばらくご歓談を、とかは無し?」
「仕事しながらでも話はできるしね〜」
「アンタはお客様枠じゃないから」
「容赦ねぇー」
はあちきと一緒に調理担当よ!」

まだ皮がついたままの野菜が両手でないと持ちきれないくらいの大きい籠に積まれている。これを剥いて調理しなければならないとは骨が折れる。
われの布団を干して部屋に運ぶ仕事もあるが、と虎に言われたがすぐに籠を持って逃げ出した。


「というか、その服はなに?サイズもあってないし、なんか汚い」
「俺が学校に仕事決まったーって言ったら居候させてくれてた子が餞別にってくれたんです。公務員は襟付きシャツでしょーって」

肩のシミは前にブラドキングに刺されたものだ。動きを封じるためのものだから怪我は負わなかったが、血である以上完全に落とすのは難しかったという。
ピクシーボブがため息をついた。

「洗い方が下手なのよ。貸しなさい」
「え、いいの?うわ〜本当に恩に着ますよ。ピクシーボブのパートナーさんは超幸せモンだろうなァ」
、それはわざと?」
「ん、なァに?」
「………ハァ。アンタって恋人尽きなさそうよねぇ」
「えぇ?俺今フリーですよ?みんな俺のこと彼氏にはしたくないんだって。だから皆フレンドどまり」
「最低」
「えぇ?」

ケラリと笑う顔を見て少しだけ警戒心を解く。どうやらあの頃より毒気が抜けているらしい。大人になったのか雄英の効果なのかは分からないが、素直に良かったと思う。

「早く着替えてラグドールの手伝いに行ってきなさい」
「はーい」

ワイシャツを脱いで、黒のインナー姿になったの右腕には斑に火傷後が残っている。偶然目があったに「えっち」と言われて頭にきたため土を盛り上げて追い払った。


「ラグドール〜一泊目の夕飯は振る舞ってやろうって言い出したの誰〜〜?」
「おや、随分お疲れ様だねー」
「そりゃそうですよ。ここ着いて早々にお勝手仕事させられてんだもん。疲労困憊よ」

やりたくない早く寝たいとぼやきながら手は休むことなくごぼうのささがきを行う姿を見てラグドールはニッと笑った。

「なんだか前に会ったときより素直だねぇ。最近"個性"使ってないの?」
「ん?逆ですよー使いまくり。この間もオーバーフローを引き起こしちゃったし」
「ありゃりゃ。それはいつ?」
「高校に来る前から溜まってはいたんだけど、うん。USJ襲撃とか、あと能無に使った時が一番キたかな」

動物とも精神異常者とも違う脳を揺らす感覚はに大きく負荷を与えていた。その上相手に効果がないのでは無駄骨だ。次は個性に頼らない方法でないと倒せない。の反省に相槌を打ちながらもラグドールも人参をいちょう切りにしていく。

「じゃあその能無がとどめを刺したって感じ?」
「いや、それだけじゃなくて……」

『やっぱお前はヒーローになるべきじゃねぇ』

鏡に吐いたような言葉。
そういえばあの時、あの生徒はどんな顔をしていたのだろう。

?」
「……あ、いや。まー保須でヒーローや能無相手に使う頻度が高かったのが敗因ですな」

いつの間にか野菜は切り終えて野菜くずの片付け諸々作業を終えていた。皮がなくなり質量の減った野菜籠を抱えたはラグドールを待つことなく炊事場へ向かう。まだまだ残された工程は山ほどあるので。


   ***

「マンダレイから、子供には近付かないでって言われてるんだよ」
「っ!?」

壁に隠れて見ていた洸汰は突然声を掛けられおずおずと姿を現した。

「その子供ってお前のことか?」
「まずはお前から名乗れ」
「生意気ィ。じゃあいいや『ガキ』と『お兄さん』で」

自らを『お兄さん』と言う男はキッチンに向き合っているためその顔こそ分からないが、声を聞くだけではお兄さんともおじさんともとれないが、見ず知らずの男に『ガキ』と言われるのには不服だった。

「お前も、ヒーローなのか?」
「あっはっは。そう見える?」

質問で返された事にまた眉間のシワを深める。そこまで興味もないし、どうせ会話にもならないだろうからと立ち去ろうとした時に男は火を止め振り返った。

「一緒にするなよ。俺ヒーロー嫌いなんだ」
「はぁ?」

ようやく見た顔は確かに年齢が分かりづらく、しかし洸汰から見ればおじさんだ。

「おじさん、ヒーローじゃないのか」
「お兄さんな。免許はあるけど今はお休み中」
「なら結局ヒーローじゃんか」
「んーガキんちょにはわかんないか。ヒーローって別に、免許があればなれるってもんじゃないんだよ」

鶏肉に味をつけて袋に入れる手付きは時々声が聞き取りづらくなる程度に荒いが、洸汰との会話を続ける気はあるらしい。ムッとする洸汰の事は気付いていない様子で話を続ける。

「プロヒーローってのは自分の身を捨ててでも人を守る人の事だ。俺にその覚悟はない。俺は知らん人のために死にたくねぇもん」
「……」
「負けるって思ったら逃げたい。俺は知り合いにしか『守りたい』って思えないが、プロヒーローは誰にでもそう思わないと駄目らしいぜ」
「そうさ、逃げちゃえばいいんだ……」

洸汰の言葉には小さく口に舟を作る。ヒーローに対して逃げていいなんて言える洸汰の境遇など知らない男はそうだよなぁと同調して、洸汰の怒りを買った。

「簡単に命捨てるなんてバカのすることだよ」
脛蹴られてる
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