「賭けてもいいぜ、マイク。お前は生徒にボコられる」
「ハァン??いやいや、俺は手加減してやる気もないし、ましてや油断もしないからむしろ生徒が可哀想なくらいさ!」
「あーあー今のはフラグだぜ。ごちそうさま」
「何?アナタたち学校での賭け事は禁止よ?」
「お金は賭けてませんよ。今週末の飲み会どっちが奢るかです」
「へぇ、ちなみに私はどう?」
「ミッドナイトさんは……開始直後にあの紫坊主がパチンコよろしく飛んでゴールへいかない限り負けないでしょ」
「あらありがと」
「いえいえ」

俺と評価が違う、と憤慨するプレゼントマイクを雑に宥めているうちにイレイザーヘッドが職員室に入る。はいくらか落ち着いたらしく、普段通り姿に安堵し吐いた息は、周囲からはため息と捉えられプレゼントマイクはきゅっと眉間に眉を寄せた。

「授業に出る許可はまだ出てないから安心しろよ」

目を伏せてコーヒーを飲むから、今日もと相澤は目線が合わない。また勘違いを生んでしまったと思ってはいてもこの場でそれを訂正するための会話はされないまま鐘が鳴る。

、お前も来るだろう」
「試験の見学?まぁここにいてもやることないし、行こうかな〜。物間の無様な敗北を目の当たりにしてやろう」
「む!あいつはやるときはやる男だ」
「相手によるでしょ〜」

楽しげに笑い支度をするの右腕は吊られてはいないもののまだギブスがついていて、万全ではないのが伺える。学内の使われない教室の隅で隠れるように暮らす男は、一人でその障害を抱えながら暮らせているのだろうか。
その程度の質問もできないのは忙しいためだと言い逃れするように、早々に職員室を出た。

「かりん糖とみりん煎餅買ってきたんだけどどうですか?」
「遊びに来たのかい」
「媚を売りに。あとまぁ、あいつらの戦闘を客観的にきちんと見たことがなくて」
「へぇ。反省してるようだね」
「そういうわけじゃない。まぁ確かに、仮想戦闘訓練なのに大人気なく一方的ではあったなぁと」
「それを反省と言うんだよ」

納得していない様子のは勝手知ったる様子で2つの湯呑を並べ、事前に湯呑に入れたお湯を急須に戻し、茶葉をしばらく蒸らした後で交互に注いでいく。

「………はぁ、難儀な子だねぇ」
「なんですか?」
「なんでもないよ」

同時進行て行われる試合は各モニターに映っており、どの試合からも教師陣の余裕ある対応と生徒たちの必死さが伝わってくる。実力差があるのだ。本来あるべき形を目の当たりにしてはため息をついた。

「これ見ると俺死ぬほどダサいなぁって感じ。わりとガチめに相手してたし、こんな風に隙を与えながら戦うのって難くないッスか?」
「それをやってのけるのが名門と呼ばれる所以さね」
「なら尚更俺がここにいんのおかし───」
「ん、どうかしたかい」
「……………いいえ……」

の声には覇気がなく、その後リカバリーガールの問いかけにも一切反応を示さなかったのは一つのスクリーンに釘付けになってからだとわかったのは、全ての試験が終わり生徒を帰したあとのことだった。


「あれはわざとか?後遺症か?」

評定のため会議室へ向かう途中で、声をかけてきたのはからだ。ここまでずっと気の抜けていたプレゼントマイクが現実に返ってくるほど驚いているし、声をかけられたイレイザーヘッドは咄嗟の事に返事が出来ずにいた。

「後遺症なのか」
「……閉じないようにとすれば、もう少し開けていられた」
「そうか。嗚呼、分かった」

イレイザーの回答に満足したのか詰め寄るのをやめた。見学をしたとはいえ他の教師陣が採点のために集まる部屋には立ち寄らずに自室へと戻るらしい。

「……」
「なんだったんだ?あいつ」
「目の事を、」
「あぁ?あいつなりの心配だったとか?」
「いや、違うだろ。行くぞ」

何か言いたそうにするプレゼントマイクを無視して部屋へ入る。

「この会議が終わったら相澤君と管君、時間あるかい?」

本日二度目の呼び止めは根津校長からだった。


   ***

完全に日も落ちた放課後になって、呼び出された相澤と管が校長と対面する形で座らされている。目の前の机には校長が入れた紅茶が置かれているがどちらも手を付けていない。「まぁ飲んでよ」と言われるが、二人としてはこの学期末になぜ呼び出されたのか、早く本題に入ってほしいのが本音だ。

「まぁだいたい察しはついてると思うけど」

そんな二人の空気を察してかはわからないが、根津は自身の入れたダージリンティーを傾けながら呼び出した理由を話す。

君について、君たちはどう思う?」
「……と言うと?」
「USJの襲撃や例年とは違う体育祭人気、それに保須市に現れた能無を考えると確かに一番警護が必要なのは一年生だろう。ただそれを差し置いても、君を配置する事にデメリットを感じている人は多いんだ」

USJ襲撃時の防犯カメラを復元したせいでの行き過ぎた防衛行動がその場にいた全ての教員の目に止まってしまった。燃えるビルに入らせたり叩きつけたりして情報を吐かせたり、砂漠エリアでは轟の個性により発現した氷でヴィランの腕を刺して口を割らせるなどの拷問にでていたし、何よりその一部始終を生徒が見てしまっているのだ。悪影響、と呼ぶのが生温いと憤慨する教師もいた。

「ハウンドドッグ先生は自分の副担任につけるよう進言していたよ。確かに彼なら目を離さず見てくれるだろうね」
「しかし本人がなんと言うか……」
「本人の意志より優先すべきものが沢山あるだろうさ」
「それは、その通りです」

生徒を引き合いに出されれば引き下がるべきは相澤の方だ。膝の上に乗せた拳に力が入るのを横に座る管は気付いていた。詳しい事情までは分からずとも、相澤との間に何らかの確執があることには勘付いているために、つい口を挟んだ。

「では、林間合宿に同行させて決断するというのはどうでしょう。あの場ならプッシーキャッツもいますし、監視の目は十分かと」
「成程ね。相澤先生はどう考える?」
「……生徒に、いい影響を与えないのは確かです。林間合宿は生徒を成長させるための場。連れて行くのは面倒を増やす、だけかと」

下を向いたままの相澤はぽつりぽつりと根津の意見に沿わせる発言をすることが今の管には理解しきれなかった。せっかく自分がフォローしたのに何故同調しないのか、何故合理主義の相澤がこうも歯切れが悪い物言いになるのか。

「しかし、あいつの今後を決断するための場としては適切だと、思います」
「わかった。今回はヴィラン側に悟られないためにも雄英の教師は回せない。そういう意味でも彼は本来の護衛の役割を果たすのに適任だとも思うよ。先生たちには負担だろうけど、どうか彼のこともお願いね」

最初からこの結末に落ちつくことは考えていたのかもしれない。根津は終始穏やかな顔で紅茶を嗜んでいた。
捨てられないでいる
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