「まずは、退院おめでとう御三方」
「ありがとうございま───」
「2つほど聞きたいんだけども」

緑谷の言葉を遮って人差し指を立ては口を開く。

「1つめ。免許を持ってない身分で個性を使えば違法行為になるとわかってたら、あの場で個性は使わなかったか?」

はい端から、と指をさされ、一番端に立っていた飯田は息を飲んだ。自分のせいでプロヒーローたちを巻き込み損害を負わせてしまった負い目がある。

「……わかりません」
「保留ね。はい次」
「次はねェ。次同じことが起こる前に俺が免許を取ればいい話だろ」
「そういう話じゃないからそれは答えになってない。次」
「僕は……やっぱり助けると思います」
「それによってお世話になったヒーローに迷惑がかかっても?」
「ヒーローの仕事は人助けだから、きっと、怒られるけど、でも、助けなかった方がよっぽど怒ると思うし、僕も、そうすべきだと思うからです」
「へぇ……眩しぃ」

目を細めてうっすら笑う。本当に眩しいものを見るかのように。

「では2つ目の質問。ヒーローの卵に助けられるようなプロヒーローは今後も活動を続けていくべきだと思いますか」

その場の空気が明らかに変わった。冗談ならこれほど笑えないものはないし、本気なのだとしたらそれは───

「それは、どういう意図の質問ですか?」

怒りを滲ませる飯田には紳士的な笑みを浮かべて答えるが、その顔に葉隠はひそかに肩を揺らした。USJ襲撃の時に見たと少し似ていたから。

「本当に純粋な問いだよ。他意はない」
「………」
「ヒーローチャートに名前を連ねるようなプロはともかく、街のなんでも屋さんみたいなヒーローまでもがヒーロー一本で食べていけるほどこの国の治安は乱れてないし、税金もない」
「そうね。生活するため他の副業をやってるヒーローもいるわ」
「そうだね。なんならヒーローが副業のやつだっているんじゃない?兼業してる奴にとってヒーロー免許なんてほんとに便利な資格だよ。広告としても使える」
「あのぉ、話が見えないのですが」
「少し逸れたかな。つまり、歩合制とはいえ大した活動もできないようなヒーローに税金を払う価値はあるのかって話」

誰も口を開かない。お互いが顔を見合わせたり目を逸らしたりと反応を示す。

「……でも、ヒーローだ」
「答えになってない」

欲しい答えになってない。


緑谷の頬を炎が掠める。目を見開く緑谷とは逆には分かっていたのか素早く半身を引いて爆豪の攻撃を躱す。

「話、長かったかな」
「分かってんならさっさと始めろ」
「そうだな。俺も時間を無駄にしたと思ってたところだ」


淡々と、まさに事務作業のように仮想敵戦闘は進んでいく。に勝つことは未だ成せていないが、普段より当たりが増えたのは腕の機械がいつものと違うからか。僅かに固い動きをするも苛立ちを感じているのかいつもの小馬鹿にした笑みはない。ペイントを塗ったラバーナイフを急所に当てた方が勝ちだが、いつもはが綺麗な身のまま勝利するそれも今回は急所を外す事が多く、一戦にかかる時間も延びた。細かな手足にペイントが付着する。

「それにも快勝できないのは超悔しいな!」
「オメェらがあいつにビビってるだけだろ」 
「はぁ?」
「あの舐め腐った顔、潰してやるよ」

乱暴に水を飲むの前に爆豪と尾白がでる。露骨に嫌そうな顔をするに俺も嫌だと尾白が小さくぼやいていた。

「オラァッ!」
「ふっ……」
「ここだっ」

爆豪の爆破を纏った拳が地面を割り、舞い上がった土埃と砕けた岩の隙間を縫って今度は尾白の蹴りが飛ぶ。一度建物か木を掴み上を取るのが定石だが、今回はそれを見越してか周囲になにもない場所へ誘導されていた。

「これだから頭のいいやつは嫌いだ」
「こんだけやってりゃ猿でも気づく」
「酷い言いようだな猿以下の同級生に謝、れ!」
「気付かれ……!?」

地面にワイヤーを張っていたらしい。挟み撃ちをするつもりで岩の陰に入っていた尾白は地面からのワイヤーに足を取られ体制を崩す。ワイヤーがうまく尾白の尻尾に巻き付いたのを利用し、一気に距離を詰め首にペイントをつける。

「ヒット!───ッ、でも……っ」
「……!?クソッ!」

普段なら、が対象横を通り抜けた時点でワイヤーを抜き、別のワイヤーを張ることで一箇所に留まることも勢いを殺すこともなく移動できるのに

「先輩からの、忠告。メンテナンスを怠るとこうなる……っ」

何度機械を動かしても尾白に絡んだワイヤーは外れず、今度はが動けなくなる番だ。

「そのまま死体と繋がってろ!」
「クソガキ……ッ」
「この間は散々好き勝手やられたからなァ……今度はこっちの番だ。死ね!」
「くそヴィランがよぉ!」

体術だけでいえばややのが有利でも、爆豪には個性がある。一進一退でどちらも致命的な技は入らず短気な二人の苛立ちだけが募っていく。先に爆発させたのは爆豪だった。

「ずっとムカついてんだ……、気持ち悪ィんだよイレイザーヘッドへの執着心がッ」
「────ハ?」
「お前の態度と、あとイレイザーヘッドもそうだ。ガキみてぇなあけすけのやっすい態度で隠してるつもりかよ」

一瞬呆けてしまった。タイミング悪く爆豪の蹴りが頭を揺らしは思い切り岩場に体を打ち付ける。右腕一本でなんとか膝をつけずこらえたが、まだ視界が明瞭になる前に爆撃を食らい立っているのがやっとなのか俯いたまま動かなくなった。前回とは立場が真逆だ。

「他の奴がどんだけ気付いてるかは知らねぇが、テメェの"それ"は特にウゼェんだよ」
「………憶測で何ペラペラ言ってんだ」
「あ゙?」
「お前が俺の態度に何を感じたか知らねぇが、もし気付いた理由がお前が『緑谷』に向けてる感情が"コレ"と"同じ"だからだとしたら──」

岩についた腕を慎重に下ろして体側につける。その変わり左手は顔の前に伸び、握った手から親指だけを伸ばし、地面に向けた。

「──やっぱお前はヒーローになるべきじゃねぇ」
「何ごちゃごちゃ言って」
「おすわり。」
「!?」
「ああ゙頭痛ェ。俺に跪くことがそんなに嫌か。なら尚更、おすわり。」
「ぐ……っ」

少しずつ膝が地面に近付く。

「もう生意気な事を言わないように、ここでカッチリ躾けてもいい。ほら、一度痛い目見なきゃ学ばないんだろ?」

仮にも教師だ。そんなことできるわけがない。ハッタリだ。ヴィラン役に徹しただけの演技。そのはずなのに、そうとは思えない殺気。反射的に爆豪も辛うじて自由のきく両手に目一杯の力を込め、

「私が真上から!来た!!」

地面が揺れ、岩が砕ける。その岩陰に身を隠しながら攻撃の機を狙う二人の頭をガッチリ掴んでしまえば後はもう睨み合う以外術がない。

(爆豪少年の睨みが可愛く見えるな、この男を前にすると)

オールマイトの手の隙間から覗く瞳孔の開いたギラギラとした目は睨むとか凄むではなく、獲物を見ている目。

「頭を冷やしな、さい!」
「ガ……ッ」

地面に頭を叩きつけられたは気を失い、その後はオールマイトのぐだぐだな総括を持ってお開きとなってしまった。

「ほんッとに、遠慮のない実践だったね!色々学べただろうペイントつけられた人は行動の反省するように!解散!」

荷物のように担がれたはピクリとも動かない。入れ違うように体育館に入ってきたスネイプに誘導され、生徒達は更衣室や医務室へ向かった。

「………」

『ヒーローの卵に助けられるようなプロヒーローは今後も活動を続けていくべきだと思いますか』
『一度痛い目見なきゃ学ばないんだろ?』

「どこかで……」
「緑谷ー?」
「あ、うん!今いく!」




<ヒーローは取捨選択せず全員救ってお前が死ねと、現実逃避した先の正義感がそう言うのか?>

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